2016年04月15日発行 1424号

【おおさか維新の会が改憲案/行き着く先は9条否定と核武装/「お試し改憲」へ誘導狙う】

 3月26日、おおさか維新の会は党大会で「憲法改正原案」を決定した。教育・憲法・地域主権、と国民の願望をすくい取るかのように見せかけ、世論を「お試し改憲」に誘導しようというものだ。

教育無償化へ改憲?

 維新改憲案は、「経済的理由によって教育を受ける機会を奪われない」「幼児期の教育から高等教育に至るまで、法律の定めるところにより、無償とする」と定める。

 日本は国際比較で教育費に占める個人の負担が格段に大きく、自治体を含む政府負担が小さい。奨学金はほとんどが貸与で「公的教育ローン」と化している。大人、子どもとも貧困率が上昇し、世代を超えた「貧困の連鎖」の懸念を政府も認めざるを得ない。

 おおさか維新の会で改憲案をまとめたプロジェクトチームの片山虎之助参院議員は「この総理大臣の時には、無償化にする、この総理大臣の時には半額にする、この総理大臣の時には三分の一にする、こういうことがないように憲法に書くということが意義がある」と述べる。

 だが、教育無償化に改憲の必要はない。

 日本も加わり批准した国際人権規約・社会権規約は「高等教育の漸進(ぜんしん)的無償化」を宣言する。日本が締結した条約は憲法によって国内法と同等の効力を持つ。政府が実行していないことこそが問題だ。

 憲法は義務教育を無償とするが、範囲まで定めていない。定めるのは教育基本法で、現行は9年。改正すれば、就学前教育から高等学校、大学まで無償とできるし、同法に無償を盛り込むこともできる。改憲する必要はなく、社会権規約を守り、教育基本法改正で全く可能だ。

憲法を権力者のものに

 おおさか維新改憲案は、憲法裁判所の新設を掲げた。

 その理由について片山は「国論を二分して大騒動になって、違憲立法審査権がありながら最高裁判所が判断しないから」と述べた。戦争法国会審議過程を指すのだろう。

 だが、維新案による憲法裁判所の構成は最高裁裁判官4人、衆参国会議員が各4人の計12名。訴えを提起できるのは「内閣総理大臣又はいずれかの議院の総議員の4分の1以上の議員」となっており、国民は直接提起できない。権力を縛る憲法に法律が適合するかどうかを判断する裁判官が権力者だけ、訴訟提起も権力者だけでは、まともな憲法判断などできるわけがない。

 違憲審査が有名無実化している原因は、最高裁が「高度に政治的な問題は司法審査の対象とならない」とする「統治行為論」により審理さえ行わないことにある。また、法律の一般的な審査ではなく、具体的な訴訟で必要となったときのみ違憲立法審査権を行使する自己規制が原因だ。

 裁判官一人ひとりが憲法の定める裁判官の独立≠忠実に守り、内閣・国会を牽制すれば改憲など必要ない。

住民自治を否定

 地方自治について、改憲案は道州制導入を明記した。

 道州制は、現在の都道府県を廃し、日本を10前後の道州に分割。開発・経済政策は道州が、市民サービスは市町村が担い、国は外交・軍事に特化するというものだ。

 国はTPP(環太平洋経済連携協定)や軍事同盟のようなグローバル資本のための政策に専念し、国民には「自助自立」「自己責任」を押し付けるための「統治機構改革」だ。

 しかも、改憲案は第95条(特別法の住民投票<注>)を削除した。

 道州は「法律に優位した条例を制定することができる」としているが、対象は道州の専管事項のみで、軍事・外交に関するものは対象外。国政に対する地域住民の直接的な異議申し立て権を否定し、条例制定に関わる道州知事と道州議会にのみ異議申し立て権を与える。二重の意味で「地域のことは地域住民自身が決定する」住民自治の原則を否定するものだ。

 おおさか維新の「地域主権」とは、住民による首長・地方議員への白紙委任を意味する。

戦争政策を推進

 「保育園落ちた」「貧困の連鎖」「集団的自衛権行使」を使った維新改憲案は、民意に沿うかのように装うだけに「緊急事態条項」を突破口にと狙う安倍以上にたちが悪い。

 もちろん、行き着く先は安倍と同じだ。片山は「9条2項、緊急事態については私は必要性があると思うが、国民の間にはいろんな意見がある。場合によっては国論を2分するものになるので、もう少し慎重に扱った方がいい」、おおさか維新代表の松井一郎大阪府知事は「完璧な集団的自衛権という方向に行くのか、自国ですべて賄(まかな)える軍隊を備えるか、そういう武力を持つならば最終兵器が必要になってくる」と述べた。

 ともに戦力不保持を定めた憲法第9条2項を標的としている。また、「核武装は合憲」との内閣答弁書を決めた安倍に呼応するばかりか、松井発言は核武装を「政策としての選択肢」として想定し、大きく踏み込んでいる。

 おおさか維新の改憲案は、オブラートに包んだ猛毒だ。おおさか維新―安倍改憲連合を許してはならない。

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(注)一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない。
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