2016年04月15日発行 1424号

【電力小売自由化/国は原発延命策とセット/再稼働ノー、脱原発への契機に】

 4月1日、電力の小売り自由化がスタートした。地域独占・総括原価方式の下で、民意を無視して原発再稼働を強行する電力会社の支配に風穴を開けるチャンスだが、課題もある。市民の力で脱原発社会を実現するため、何が問われているのか。

「原発以外」都民7割

 電気は、どの企業のどのような設備を使って発電しても品質に差がなく、送電線も共有で特定の会社の電力だけが送電中に劣化することはない。そのため、価格がまず問題にされ、マスコミも価格比較ばかりを報じている。

 福島原発事故経験後、市民の脱原発の意思は強く、あらゆる世論調査で脱原発に賛成が常に過半数を占める。特に今回、事故を起こした東京電力の営業区域である東京、東電柏崎刈羽原発のある新潟で行われた世論調査では、いずれも7割が脱原発を支持。「原発の電気を使わない」を電力会社の選択基準にするとの回答は「価格」の次に多かった。東京都民に限れば「東電以外への切り替え」を検討する人は6割に上った。

 脱原発を電力会社の選択基準にすることには大義がある。問題は多くの新電力会社が原発の電気を使用しているか否かを含め、電源構成を開示していないことだ。消費者団体は電源構成開示を義務化するよう求めたが、原発を維持したい経産省は努力目標にとどめ義務化は行わなかった。

原発維持のからくり

 今回の自由化は、あくまでも電力の小売り部門に限られ、最も抜本的な改革である発送電分離は行われなかった。送電網を現在の電力会社から分離、すべての発電事業者が使用料を払い送電網を借りて使用する発送電分離が行われるまでの間は、新電力は電力会社の送電網を借りて送電する現行の体制が続く。

 電力会社は新電力各社から「託送料」を徴収するが、原発の延命のため、核燃料サイクルや廃炉費用が託送料に上乗せされる可能性もある。託送料には国の規制が設けられる予定だ。しかし、過去、同様に規制とされてきた電気料金も電力会社の申請通り認可されてきたことを考えると、「政府―電力結託体制」の下で実効ある規制とはいえない。

 国は、発送電分離が行われ、総括原価方式(電力会社のあらゆる経費を電気代に上乗せできる制度)も廃止となる2020年以降を見据え、原発「救済」策を次々に打ち出している。こうした動向にも関心を持ち、原発救済にノーの声を上げる必要がある。

情報開示から電力支配打破

 新電力会社のすべてが自分で発電設備を持っているわけではなく、持っていても全電力を自家発電でまかなうわけではない。誰かがどこかで発電した電気を転売するだけの会社も多い。新電力の「セット割引」の中には一定期間、解約ができないなど携帯電話同様の利益至上姿勢もある。

 反原発自治体議員・市民連盟エネルギー担当で東京都羽村市議の門間淑子(ひでこ)さんは、じっくり見極め、電源構成と電力会社との提携の有無を確認すべきという。大規模な発電設備を持っている会社ほど電力会社の電気に頼る必要がなく、原発比率も低いからだ。

 原発が再稼働されれば、その電力会社と提携する新電力の電気には必ず原発由来の電気が入る。セット割引を売りにするソフトバンク、au(KDDI)も電力会社と提携している。

 反原発自治体議員・市民連盟が主要37社にアンケート調査をした結果、F―POWER、エネット、中央セントラルガス、JX日鉱共石エネルギー、みんな電力、洸陽電機、東急パワーサプライ、シナネンの8社は原発の電気を使わないと回答した(3月段階)。

 これらの中にも、電源の一部を市場から調達すると回答した社が含まれる。市場からの調達電力には原発の電気が交じる可能性があり、完全な脱原発は容易ではない。だが、再稼働にまい進する電力会社からこれらの会社など新電力に切り替えることで、再稼働ノーの意思を示し、原発比率を下げることができる。

 安倍政権は、消費者に選択を許さないことで市場を独占する電力会社を利用し、市民の反対する原発再稼働を推進してきた。日本社会のこの電力支配構造を解体しなければならない。有力な選択肢が提供されれば、電力支配を覆すことができる。電源構成などの情報開示に消極的な新電力会社には情報開示を求め、適切に電力会社を見極め切り替える市民が増えるほど、脱原発の実現に近づく。

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