2016年04月22日発行 1425号

【みるよむ(394) 2016年4月9日配信 イラク平和テレビ局in Japan 人々を分断するバグダッドの壁】

 2016年2月、サナテレビは、イラク政府のバグダッド治安部隊本部が首都バグダッドの周辺を取り囲む巨大な壁の建設を検討していることについて、市民にインタビューを行った。

160`にわたる壁

 視聴者のみなさんは、バグダッドを囲う巨大な壁が建設される話をご存じだろうか。「イスラム国」(IS)による攻撃を防ぐ名目で、バグダッドの周囲160キロメートルにわたる壁を築くというのである。

 インタビューに応じたある市民は「たしかに積極的な面はある」と答える。「イスラム国」による自動車爆弾攻撃や自爆テロが頻発している現状で、市民の安全が大事というのだろう。

 以下、様々な市民の意見が紹介される。

 メディア関係者は否定的な見方をしている。壁を作るとバグダッドとその他の都市、地域がお互い孤立化する。「これは間接的な分断策」だと指摘する。

 サナテレビのコメンテーター、サジャド・サリームさんはナレーションで「イラク政府がこんな巨大な建造物を作るのは『巨額の国家予算の浪費だ』と市民は怒っている」と語る。石油価格の下落による財政破綻を口実に緊縮政策を推し進め、国営企業労働者・公務員の賃金未払いを何か月も続けている政府が何をやっているのか、ということだ。

 それだけではない。政府高官の汚職のひどさで名高いアバディ政権のこと、巨額の壁建設費の裏で利権をむさぼる政治家や企業がうごめいているに違いない。

 また、ある弁護士は「フェンスではなく、カメラや検問所、音波探知自動車のような高性能の機材を使うこともできる」と爆弾攻撃を防ぐ様々な方法があることを指摘している。全く常識的な話だ。

愚策を見抜く市民

 別の市民は「壁がバグダッドを南からも東からも西からも囲んでしまう。人びとの自由な移動が妨げられ、心の平和を感じられなくしてしまう」と実感を述べる。

 「イスラム国」によるテロの恐怖がやまないにもかかわらず、政府は市民の命をまともに守らない。こうした深刻な状態の中で、イラク市民は巨大な壁建設がいかに愚策であるかを冷静に見抜いている。そのことをサナテレビは伝えている。

(イラク平和テレビ局in Japan代表・森文洋)



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