2016年04月22日発行 1425号

【奨学金全国会議が設立3周年集会/激増する返還訴訟 制度監視が必要/貧困は世代を越える/大企業・富裕層の負担で給付型を】

 自公両与党までもが「給付型創設」を提言し、参院選での争点化も見込まれる奨学金問題。制度改善の運動を進めてきた「奨学金問題対策全国会議」は、設立3周年集会を4月2日、都内で開いた。

 「家計が厳しく大学はあきらめていたが、生徒会長などの活動が認められ、バイトと学業を頑張るという条件で進学した。就職したものの、過酷な労働環境で体調を崩し退職。日本学生支援機構に奨学金返還猶予の相談をしても、『前年度収入が300万円を超える』『前2か月の収入を年換算すると300万円を超える』『失業手当支給期間を過ぎている』と猶予が認められなかった」

 高校から奨学金を借りた女性は、姉弟とともに学費に悩まされてきた胸のうちを語った。看護師希望の姉は進学をあきらめ、奨学金で大学に進学した弟はアルバイト漬けで中退した。

 「奨学金が無料(給付)であったらと思えてならない。姉は大学に進学できただろうし、私も弟も奨学金に悩むことはなかった。誰もが安心して学べる社会がきたらと本当に願っている」

 激増している奨学金返還訴訟も利用者に厳しい。埼玉奨学金問題ネットワーク事務局長の鴨田譲弁護士は「裁判官が日本学生支援機構を『準公的機関』と信じ切っている。もどかしいのは、細かく追及したいが長く争うと裁判中も延滞金が増えていくこと。負けたときのリスクを考え、機構の言い値で和解せざるを得ないケースも多い。裁判での救済は困難であり、制度の改善を」と訴えた。

 奨学金制度改革を求める運動の力は、延滞金10%から5%への引き下げ、返還猶予期限5年から10年への延長、無利子奨学金の拡大などの改善をかちとってきた。来年度からは、所得に応じて返還額が増減する「所得連動返還型」奨学金が導入される見込みだ。しかし、厚生労働省の有識者会議で検討されているのは、年収ゼロでも毎月2千円の返還を求めるなど、所得連動とは名ばかりの制度。

 全国会議事務局長の岩重佳治弁護士は「返還する自覚を持たせないとモラルハザードが起きる、400億円の赤字が出るというのが有識者会議の論調。救済措置とする返還猶予制度は上限10年、返済が遅れている元金と延滞金の一括納付が条件、など救済になっていない。奨学金制度は改善されたと思ったら運用による制限などの動きが出てくる。しっかりと監視していかなければならない」と警鐘を鳴らした。

 給付型奨学金制度の導入・拡充と教育費負担の軽減を求める署名は301万3851筆に上り、3月22日、安倍首相に提出された。同日開催された院内集会では民主、維新(ともに当時)、共産、生活、社民各党のほか公明党の国会議員も発言し、制度改善へ気運は高まっている。

 全国会議共同代表の大内裕和・中京大学教授は、参院選での争点化にあたり、「財源論」を克服することの重要性を主張する。

 「大企業の内部留保は299・5兆円あり、純金融資産1億円以上の富裕層は100万世帯、総額240兆円に上る。奨学金は生まれによる格差を是正し、教育の機会均等を実現するもの。莫大な利益を上げている大企業と富裕層への課税による給付型奨学金の創設が理にかなう。奨学金問題を突破口に、法人減税と所得減税、消費増税によって進められてきた新自由主義グローバリズムを批判し、社会保障を再構築することが99%にとっての課題だ」

 「下流老人」の言葉を生み出したことで知られるNPO法人ほっとプラス代表理事の藤田孝典さんは「世代を越えた貧困」をテーマにした講演で、新自由主義からの決別の動きがアメリカやイギリス、スペインなどで始まっていることを紹介。「問題をわかりやすく伝えること、同じ価値観を持つ人がつながり運動を盛り上げていくことが重要。あきらめなければ社会は変えられる」と訴えた。



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