2016年04月22日発行 1425号

【教科書も「安倍カラー」/新基準適用の高校教科書検定/政府見解が正解と教え込む】

 若者を「安倍カラー」に染め上げろ、ということか−。2017年度から使われる高校教科書の検定では、政府見解を書かせる文部科学省の修正意見が相次いだ。その結果、第二次世界大戦、集団的自衛権の行使、原発問題などの記述が、安倍政権の姿勢に合致した内容に書き換えられている。安倍流教育支配の実態をみていこう。

戦後補償は「解決済」

 文部科学省は2014年1月、社会・地理歴史・公民科の教科書検定基準に新しい項目を追加した。その内容は、▽未確定な時事的事象について特定の事柄を強調しないこと▽近現代の歴史的事象のうち、通説的な見解がない数字などの事項については、その旨を明記すること▽閣議決定などの政府の統一的な見解や最高裁判所の判例にもとづいて記述すること−の3点。高校の教科書には今回の検定で初めて適用された。

 新検定基準は安倍政権と自民党の指示で導入されたもので、「教科書を政府広報化する」との批判が上がっていた。今回の検定結果をみると、その危惧が現実となったことがわかる。

 たとえば南京大虐殺の犠牲者について、申請本の「20万人」を「おびただしい数」に改めさせたうえ、「人数は定まっていない」と書き加えさせた。関東大震災における朝鮮人虐殺の数も「6000人以上」を「おびただしい数」に修正させた(実教出版「高校日本史A」)。

 日本軍「慰安婦」問題については「強制はなかった」とする政府見解を徹底して書かせている。前記実教出版の「戦後補償を考える」という特集記事には、「政府見解に基づいた記述ではない」との検定意見が付き、法的に解決済みとの文言が加わった。

アベ政治を評価せよ

 現在の政治情勢に関する記述にも多くの検定意見がついた。清水書院の「現代社会」は集団的自衛権の行使容認に触れた項目に「第9条の実質的な改変」という小見出しを付けていた。これに対し、文科省は「憲法の平和主義が抜本的に改変されたと誤解される」と修正を要求。「有事法制の整備と第9条の解釈変更」に変更させた。

 また、政治について話し合うコラム(数研出版)で、先生が生徒に「日本が世界のどこででも戦争ができる国になるかもしれないね」と問いかけるくだりが、「平和主義のあり方が大きな転換点を迎えているといえるのかもしれないね」に変わった。「教員の発言だと生徒を誘導することになる」という検定意見を受けての変更である。

 政府方針を肯定的に評価することを求める検定意見も目立つ。典型例は安倍政権が掲げる「積極的平和主義」に関する記述だ。「広範な地域で自衛隊の活動を認めようという考え方」という説明(清水書院)は、検定による修正を経て、「国際社会の平和と安定および繁栄の確保に、積極的に寄与していこうとするもの」に変わった。

 まだまだある。安倍政権による新武器輸出三原則は肯定的な説明を詳しく書くように求められた。国際司法裁判所が核兵器の使用を国際法違反と判断したとの記述は「一般的には違反」と書き換えさせられた(いずれも数研出版)。

 原発問題では「安全を求める国民の要求にこたえる政策に転換する必要がある」(第一出版社)が、「安全性の確保にいままで以上に配慮することが求められている」に変わった。安倍政権の原発再稼働路線に沿った記述にせよ、ということだ。


沖縄の世論は大激怒

 検定意見を受けて変わったのではなく、最初から政府にすり寄る記述もたくさんある。「沖縄とアメリカ軍基地」と題した帝国書院教科書のコラムがそうだ。コラムは米軍基地の経済効果を「2000億円以上」としたうえで、「日本政府も、事実上は基地の存続とひきかえに、ばくだいな振興資金を沖縄県に支出しており、県内の経済が基地に依存している度合いはきわめて高い」と書いた。

 「地元経済がうるおっているという意見もある」「アメリカ軍基地が移設すると、あわせて移住する人も増えると考えられており、経済効果も否定できないとして移設に反対したいという声も多い」とする記述もあった。

 これに対し、沖縄の世論は「事実誤認も甚だしい」(3/19琉球新報社説)と猛反発した。当然であろう。沖縄県の県民総所得に占める基地関連収入の割合は、2012年度には5・4%にまで縮小しており、今や「基地は経済発展の阻害要因」という認識が県民の間で定着している。

 それなのに、ネットにはびこる沖縄叩きと同レベルの言説が教科書に登場し、文科省の検定をパスした。沖縄に基地を据え置きたい安倍政権の意向を忖度(そんたく)した結果である。

   *  *  *

 教科書を「政府広報」にしてしまう検定の背景には選挙権年齢の引き下げがある。18歳以上の高校生は投票できるようになった。だから政府の主張を教え込んでおきたいのである。安倍政権に言わせれば「政府見解が正しい答え」なのだろうが、こんなものは民主主義の担い手を育てる教育ではない。    (M)

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