2016年04月29日発行 1426号

【ミリタリー 海上自衛隊が相次いで南シナ海へ 中国照準に危険な軍事挑発】

 まるで戦争法をアピールするかのようだ。3月29日の戦争法施行以降、海上自衛隊の艦船が相次いで南シナ海へ進出している。日本政府は「特定の地域や国を念頭に行うものでは全くない」と白々しく語る。だが、これらが中国海軍をターゲットにした動きであることは誰でもわかる。

フィリピンなどへ続々

 海上自衛隊最大級の「ひゅうが型護衛艦」で事実上の軽空母といえる「いせ」が4月26日、フィリピン・ルソン島のスービック港に寄港する。

 スービック基地は、かつて米海軍のアジア最大の基地であり、ベトナム戦争時は重要な出撃基地であった。1991年、米比基地協定の破棄で米軍は完全撤退を余儀なくされたが、両政府は2014年に新たな軍事協定を結び、米軍の再基地化が一気に進んでいる。米比両軍は南シナ海で合同パトロールを始めている。

 近年、日比「防衛協力」も急速に動きだし、今回の海自艦スービック寄港も周到な準備で計画されてきたことが推察される。「いせ」は高い対潜水艦対処能力を持ち、ヘリコプターを複数搭載できる事実上の空母である。同艦はインドネシア周辺での国際観艦式や人道支援・災害救援に関する多国間訓練「コモド」に参加。その後、スービック港に寄港し、フィリピン海軍と米海軍の3か国による共同訓練も検討されている。

 スービック港には、潜水艦「おやしお」が4月3日、15年ぶりに寄港している。「おやしお」も「アジアでは排水量で最大クラスの通常動力の潜水艦であり、性能も先進的」と中国の軍事筋から警戒される潜水艦だ。

 「おやしお」には護衛艦(駆逐艦)の「ありあけ」と「せとぎり」も同行。2隻はフィリピンの次に4月12日、南シナ海の軍事要衝ベトナム・カムラン湾の国際港に初めて寄港した。

 カムラン湾は南シナ海に面し、フランス植民地時代からの軍事要衝で、ロシア(旧ソ連)が1979年から2002年まで太平洋艦隊の基地としていた歴史を持つ。冷戦時代には、スービック米軍基地と同様にカムラン湾のソ連軍基地も、中国を「締め上げる」存在だったと言われる。防衛省は、このカムラン湾に今後も海自艦の寄港を継続させる意向を表明した。
 さらに、オーストラリア軍との共同訓練のため、「はくりゅう」が潜水艦としては初めてシドニーに到着。「あさゆき」など2隻の護衛艦も4月26日までの共同訓練に参加する。

中国軍艦の追尾も

 一方、東シナ海では、「通常動力の潜水艦としては、現在のところ世界で最も先進的な艦のひとつ」とされる海自の「そうりゅう」などが中国軍艦を常に追尾・監視・データ収集をしている。

 「日本の潜水艦が新安保法でフィリピン訪問、東シナ海と南シナ海で中国を挟撃」(中国メディア『環球網』)は、国際的な軍事常識からすれば決して的外れな指摘ではない。陸上自衛隊の南西諸島でのミサイル基地計画と合わせ、対中国作戦行動はすでに強力に展開されているのが実情だ。
 戦争法に基づく「平時の作戦行動」は、さらなる軍拡競争にとどまらず、「戦時」へと結びつく危険性をはらむ。

 この危険な動きに対置すべきは、軍縮とアジア集団安保だ。世界の趨勢(すうせい)は軍縮だからである。≪次回ミリタリー・ウォッチングに続く≫

豆多 敏紀
平和と生活をむすぶ会

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