2016年06月03日発行 1430号

【オバマ大統領への謝罪要求はなぜ必要か 広島で米日の加害責任断罪】

 オバマ米大統領の広島訪問を1週間後に控えた5月21日、広島市内で、広島市立大平和研究所元教授田中利幸さんの講演会があった。主催は8・6ヒロシマ平和への集い実行委員会。演題は「原爆無差別大量殺戮と憲法第9条の精神――オバマ大統領への謝罪要求はなぜ必要なのか」 。

 田中さんは「普遍原理の空洞化」という言葉で、今回のオバマ大統領による「謝罪なき広島訪問」の危険性と犯罪性を痛烈に批判した。謝罪をしないとは、無差別大量殺戮という戦争犯罪(=人道に対する罪)である原爆投下について、その違法性・犯罪性・加害責任を認めないことだ。原爆投下への謝罪のないまま、プラハからヒロシマへとばかりに、「核なき世界」をめざすという形式的な目標表明さえしておけば、現実の核兵器保有や原爆投下正当化論はしっかりと温存される。

 同時に、被爆体験に根ざした、人類と核とは共存できないとの反核の「普遍原理」は無残にも空洞化され、その空洞化のために被爆地広島が政治利用される構図である。

歴史修正、9条否定と一体

 ライス大統領補佐官が「興味深いことに日本側は原爆投下への再評価や謝罪を求めてこなかったし、われわれはいかなる状況でも謝罪はしない」と述べたように、日本政府も米国に謝罪を決して要求しない。米国に対して原爆投下という戦争犯罪の加害責任を追及すれば、当然自らがアジア諸国への侵略で犯した数々の戦争犯罪の加害責任を追及されることになるからだ。

 ここでも田中さんは「普遍原理の空洞化」を問題にする。侵略戦争の反省に立って勝ち取った憲法第9条は、戦力不保持のみならず国の交戦権も否定した絶対平和主義(=「普遍原理」)を規定したものだ。侵略の歴史を修正し、戦争被害者への謝罪と補償に背を向け、戦争法制を成立させいよいよ改憲を公言している安倍首相がオバマ広島訪問に同行する。彼が「すべての犠牲者を日米が共に追悼する機会としたい」と言うとき、憲法第九条の「普遍原理の空洞化」がさらに深化する。

 田中さんの批判は、原爆投下を招いた天皇の責任にも及ぶ。戦後一貫して天皇は平和主義者として描かれ、軍部の暴走によって戦争に引きずり込まれた被害者として国民の意識に浸透していく。原爆投下は被害国日本の被害のシンボルとなり国家そのものが被害者であるかのような意識が拡大していく。被害者の頂点に天皇がいる。国体の護持にこだわってポツダム宣言の受諾を遅らせたために原爆投下を招いた天皇裕仁が1947年に広島を訪れたが、多くの被爆者を含む5万人の市民がこれを歓迎し、ともに「君が代」を大合唱し感涙にむせんだという。

 田中さんは、「普遍原理の空洞化」に抗するためには他者の加害者体験を自分のそれと同時に告発していくことが必要、と結んだ。

安倍・オバマに謝罪要求

 講演後の意見交換では、元広島県原水禁事務局長の横原由紀夫さんが「安倍内閣は4月1日、正式に『憲法9条は一切の核兵器の保有および使用をおよそ禁止しているわけではない』という答弁書を閣議決定している。今回の訪問での首脳が発表する美辞麗句にまどわされてはならない」と警告した。

 集会では、オバマ大統領と安倍首相への謝罪要求アピール「私たちはオバマ大統領に米国政府の原爆無差別大量虐殺について謝罪を要求します。同時に日本政府のアジア太平洋侵略戦争について安倍首相の謝罪を要求します。―日本国憲法第九条を擁護する立場から」という文章が採択され、367人の個人、9団体の賛同とともに米国大使館に送付された。

 
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