2016年06月03日発行 1430号

【みるよむ(399) 2016年5月21日配信 イラク平和テレビ局in Japan イラクの政治危機はなぜ起こっているのか?】

 2016年3月、バグダッドでイラク政府与党のサドル派がアバディ政権を批判して政府機関や国会などが集中するグリーンゾーン前で座り込み、政府との衝突をあおった。サナテレビは、市民に現在のイラクの危機についてインタビューを行った。

 労働者は、市民みんながアバディ政権に対して抱いている不満を訴える。まず、汚職が蔓延している。緊縮政策の押し付けで暮らしはとても苦しい。賃金の未払いが3か月も続く。政治家どもは「盗みをするどんな人物でも大臣になる」という有様だ。

 別の労働者も「グリーンゾーンの中の道路は洗剤と水で清掃されているのに、なぜ私たちの通りは今も汚れているのでしょうか。なぜ政府当局は貧困者を守らないのでしょうか」と怒りの声をあげる。ごく一部の富裕層が優遇され、市民の苦しい生活など全く考えることもなく、格差は広がるばかりだ。

 映像が撮影された3月末の段階では、サドル派が座り込みやデモを続けており、この動きに「変化」を期待する人もいた。

 しかし、ある年金生活者は、この抗議行動の行方について「良い結果を得ることはないと思います」と断言する。「何も起こらなかったかのように終わる」と言う。事実、サドル派は1か月後の4月30日にグリーンゾーンに突入して国会議事堂を占拠した。この行動は内外で報道され注目を集めた。ところが、その後、政治や国民の生活に何か変化があっただろうか。何も起こらなかった。この人は事態の進展を冷静に見通していたといえるだろう。

危険な権力争いに警鐘

 インタビューに応じた人の中には、「人びとは互いに殺し合い、政府が倒れる」と事態を危惧する人もいた。サドル派は自らの勢力を広げるためだけにアバディ政権批判をあおり、流血の惨事になりかねない状況を引き起こしていた。サナテレビは、国民を踏みにじる支配勢力の権力争いに警鐘を鳴らしている。

 この映像と同じ時期に撮影された「イラク政府与党内の意見対立を市民はどう見るか」(5月7日配信)と合わせて見ていただくと、状況をさらによく理解していただけると思う。

(イラク平和テレビ局in Japan代表・森文洋)



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