2016年06月10日発行 1431号

【南相馬市/「7月12日解除」決定を強行/住民の不安・疑問に答えず】

 福島県南相馬市の避難指示解除(帰還困難区域を除く)に向けた国と県、市による住民説明会が5月15日から同市内で4回開催された。2月の説明会で4月解除を提案した内閣府原子力災害現地対策本部だったが、批判の中で延期。「その後諸条件が整ったと判断し、7月1日を目標に解除したい」と改めて提示した。


住民説明会最終日

 対象住民は1万人を超え、これまで避難指示が解除された自治体の中で最大となる。説明会最終日の5月22日、会場には300人以上の地元住民がつめかけ、解除反対・延期を訴えた。2時間の予定だった説明会は、解除の判断根拠をめぐって約30の質問・意見が上がり、4時間まで延長されたものの、市民の納得を得られないまま終了した。

 市は解除時期決定の前提として「宅地周辺除染の完了」と「小中学校などの教育施設環境がおおむね整うこと」をあげていた。この日、桜井勝延市長は「宅地周辺の除染は完了した。医療機関と商店の再開のめどもたった」と報告。ところが、市民からは「今年度除染実施予定がまだ441か所。未同意もあり、完了はしていない」「除染しても空間線量が以前より高くなった宅地内の地点があるので、(低くなったとする)結論は早い」「ため池・川の除染はされていない。森林も入れない。農家にとって営農再開ができない限り解除は無理」。

 学校再開に関しては「市内鹿島区に避難している子どもたちが多い。そこから通うのは困難」「年寄りから段階的に帰していくしかないのでは」との意見が出された。市長は「スクールバスを予算化したい」と返答したものの、避難先から戻れない子育て世代への説得はできていない。

 市内には山積みの放射性廃棄物置場が点在する。「フレコンバッグと隣り合わせの生活になる。放射性廃棄物の輸送や焼却問題がこれから出てくるではないか」「中間貯蔵施設への搬送など、まだメドが立ってないのに。解除はそれからだ」

避難者切り捨て

 現地対策本部の棄民姿勢は明確だ。「避難指示は『戻りたい』という住民にも避難を強制する措置だが、解除は帰還を可能にする(希望に沿った)対応。『帰れない』人に帰還を強要するものではない」と、避難の原因である放射能被曝問題を心情の問題にすり替える。参加者からは「これでは、避難先にとどまろうとする者への支援策は軽視されるし、帰還する者の健康問題も“とにかく帰って被曝しながら考えよう”ということになる」との声も。

 会場からの「出荷制限は解除されたと報告にあるが、近所ではゆずからキログラムあたり967ベクレルが検出された。戻れば年配者は食べてしまう」との意見に、環境省は「果樹は大丈夫だとはまだ言ってない」と開き直る。「(請戸(うけど)川上流の)大柿(おおがき)ダムの底地は16万ベクレルの汚染。そのままにしておくのか」には、「舞い上がらなければ大丈夫。強い濁りで取水口に届くようなら止める」。危ない話だ。

 千葉市に避難中の黒木高子さんは「『直ちに健康に影響が出ない』とよく言われるが、それではいくらの数値なら影響が出るというのか」と、基準の科学的根拠を追及。現地対策本部・後藤収副本部長の「年間100ミリシーベルトを超えれば影響があるとの知見はある。以下なら大丈夫だと思う」といった推測でしかない回答に不安を募らせた。結局、賛成意見は一つもなかった。

住民了解なく決定

 説明会終了後、桜井市長は「早ければ5月27日にも国と解除時期を協議する」とし、その協議で7月12日解除を決定した。6月12日に避難指示解除した葛尾(かつらお)村と同様、解除は住民の了解を得ないまま国と自治体首長によって勝手に決められた。

 横浜市に避難中の村田弘(ひろむ)さんは「いくら決定されても、とても帰れる放射線量ではない。強行しても不信感は増すだけで、子育て世代は帰ってこない」と語った。



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