2016年06月17日発行 1432号

【戦争国家のための安倍「一億総活躍プラン」 非正規、貧困の固定化許すな 最賃1500円の実現こそ】

 安倍政権は6月2日「ニッポン一億総活躍プラン」(以下、「プラン」)をはじめ関連方針を閣議決定した。なおアベノミクス効果の自賛から始まる文章に新たなものはない。しかし、民進党などの「不十分、実現性がない」との批判は本質を見抜いていない。「プラン」は、何より安倍の戦争政策を経済的に支える富国強兵″である。

戦争支えるGDP600兆円

 安倍首相が「一億総活躍」という言葉を使ったのは、昨年9月24日自民党総裁後の記者会見。同17日の戦争法を強行採決した直後である。当時、国民の大きな怒りを浴びたので、これからしばらくは「経済最優先」で点数を稼ぐと捉える報道も多かった。

 しかし、安倍の「一億総活躍」とはそんなものではない。

 2015年4月安倍は、米国議会での演説の後、笹川平和財団アメリカ(注)で次のような講演を行った。「強い日本は、安定して成長する経済に土台を置く。私の外交・安全保障政策は、アベノミクスと表裏一体。経済を成長させ、GDP(国内総生産)を増やしていく。当然、防衛費をしっかりと増やしていくこともできる。強い経済は安全保障、安全保障政策の建て直しに不可欠である」

 安倍が戦争法強行の直後に、「一億総活躍、GDP600兆円」を掲げたのは、戦争政策を進める財源確保、いわば「富国強兵」政策だった。

ニセ「同一労働同一賃金」

 GDP世界第3位の日本が相対的貧困率ワースト4位(OECD<経済協力開発機構>諸国内)、GDP世界第1位の米国は同じくワースト3位。日本よりはるかにGDPの少ない北欧諸国では貧困率は日本の3分の1以下。1%のグローバル企業・富裕層が富を独占していることが根本問題だ。「強い」経済ではなく、99%のために富の再配分ができる人間にも自然にもやさしい経済が必要なのだ。



 これに対し、「プラン」は、「一億総活躍社会の実現に向けた横断的課題」として「働き方改革」を掲げ、(1)同一労働同一賃金など非正規雇用の待遇改善(2)最低賃金年率3%、全国加重平均1000円(3)長時間労働の是正(4)高齢者の就労促進などが方針化された。だが、この安倍の政策の実体は、非正規労働者や貧困層の拡大による社会の分裂を長期固定化するものである。

 まず、安倍の言う「同一労働同一賃金」とは、あくまで同じ雇用主の下で働く正規労働者と非正規労働者に適用の限定付きだ。労働組合の組織率が70%近いスウェーデンでは、企業間、産業間の賃金格差を縮小する「連帯賃金制度」により、同一労働同一賃金に基づいた賃金が決定される。これにより同一の職種内での賃金格差はない。このようにEU諸国では労働が社会的に格付けされ、基本的に企業横断的な賃金体系が存在する。雇用主が変わっても、賃金はほとんど変わらない。

 日本では、企業規模によって正規社員間の賃金格差が著しい。これを利用して同じ雇用主の下での「均等待遇」も簡単に反故(ほご)にされてしまう。例えば銀行の窓口業務をしていた正規社員が同じ仕事にもかかわらず低賃金の派遣会社に転籍させられた例などが数多くある。このように、職種ごと雇用変更し、別会社にして名目の雇用主を変えさえすれば格差は容認される。

 プランは正規・非正規間格差を20%まで認め、さらに格差許容の事例を決める。転勤や配置転換の有無、異動範囲など「人材の活用」が同程度でない場合は、20%以上の格差も容認する構えだ。

 安倍の「同一労働同一賃金」とは、非正規労働をさらに拡大させ、正規社員を減少させ、さらにその格差を合法化するものでしかない。社会に広がった正規・非正規、大企業・下請企業、男性・女性の賃金格差と分裂を乗り越えるには、社会的な同一価値労働同一賃金、労働の社会的な格付けに基づく均等待遇の実現だけである。

直ちに時給1500円へ

 安倍の最低賃金目標=全国加重平均1000円(時間)ではフルに働いても年間賃金は200万円にしかならない。母子家庭世帯の生活保護水準にすら達していない。平均年収約410万円の半分以下となり相対的貧困層に留まる。

 対置すべき要求は最低賃金1500円。これでようやく年収300万円を実現できる。今東京や大阪で最賃1500円を求める運動が沸き起こり、パートやアルバイト労働者から共感の声が上がっている。米国ではすでに最低賃金15ドルを多くの州や都市で実現している。生活のできる賃金として最賃1500円を直ちに実現する必要がある。

 耳ざわりのいい文言にだまさてはならない。GDP600兆円は安倍の戦争政策を経済的に支えるものだ。同一労働同一賃金は社会的に確立しなければならない。正規・非正規、大企業・下請企業、男性・女性の格差こそなくさなければならない。最賃は直ちに1500円を実現しなければ生きていけない。事実を暴き、要求を広く訴え、参院選で安倍政権に審判を下そう。

(注)「右翼のドン」といわれた笹川良一の基金による財団で「安全保障」=軍事のシンクタンク。米国では軍退役幹部などを取り込んでいる。
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