2016年06月17日発行 1432号

【こどもたちを放射線障害から守る全国小児科医の集い/健康被害究明の声広がる/寄稿 医療問題研究会 小児科医 高松勇さん】

  「第4回こどもたちを放射線障害から守る全国小児科医の集い」が5月13日、札幌市内で開催されました。4年目となる今回は初めての北海道開催。原発事故による健康被害を考える小児科医と北海道に避難している方々、避難者に寄り添う市民の参加をいただき成功しました。

 今回、私たち医療問題研究会は、小冊子「明白な甲状腺がん異常多発と健康障害の進行―障害の調査と避難の保障を―」を800部作成し、小児科学会に参加する会員に配布し臨みました。

調査と避難の保障を

 集いでは、小児科医から林敬次氏(医問研)が報告しました。その概要は―

 国内では「原発事故による明らかに健康被害を示唆する事例はない」として多発を否定する意見が多数の状況だ。しかし、現実には甲状腺がんは明白な異常多発(16年2月15日発表では166人の甲状腺がん患者、うち手術された方が116人)を示している。

 津田敏秀教授(岡山大学大学院)論文は、福島の甲状腺がんの異常多発と、その多発は事故による影響以外の原因が考えられないことを事実で世界に示した。環境汚染などを専門とする世界最大の国際環境疫学会(ISEE)で議論され、甲状腺がん異常多発を認める意見が疫学の専門家で圧倒的多数になった。

 ISEEは1月、同会長から環境大臣など日本政府と福島県宛ての書簡を公表。書簡は、福島住民における甲状腺がんのリスク増加に憂慮を表明し、甲状腺がんや他の放射線障害について、現在の政府と県の調査では不十分であり、より科学的な調査を追跡することを求めている。日本政府はISEEの提案に応えるべきだ。

 さらに、現在、甲状腺がん異常多発だけでなく、様々な健康障害増加の進行が認められる。福島では自然死産率、乳児死亡率、周産期死亡率が増加していることや、放射線障害の典型である白内障の初期病変が被ばくした事故処理作業者の間で著しく増加していることなどだ―。

 林医師は「今後も生じると考えられる様々な健康障害は大きな課題となっており、障害の調査と避難の保障が必要である」とまとめました。

 また、松崎道幸氏(道北勤医協旭川北医院院長)が「低線量被ばく、甲状腺がん、最新の知見」と題して講演。100_Sv以下の低線量被ばくでもがんは増える。放射線影響研究所(日米両政府が設立)の原爆データは、外部被ばくの健康影響を数分の一から数十分の一に過小評価している。すべての健康異常を記録し今後の被害認定の資料として保存すべき。今後やるべきことは、追加被ばくをさせない(移住・避難・保養に加え原発再稼働反対)、最新のデータに基づき放射線防護対策を根本から見直す、健康状態の追跡と適切な治療・情報をしっかり理解した上で生活の場を自主的に選ぶことを保障できる経済的裏付けを整えること、と訴えかけました。

学会総会でも追及

 参加者と約1時間にわたる討論を行いました。「首都圏から北海道に避難したが被害がどれくらい生じるか、どう考えればいいのか」「今の学会の現状を聞けば暗澹(あんたん)たる気持ちにもなるが、一方でこの様な取り組みには光明を見ている」「証拠をいくつも市民に開示していただきたい」「食品汚染が広がる中でどうして守っていけばいいのか」「避難者健診への参加を考えたいが、どういう立場でかかわっていけばよいか」など、貴重な交流を積み上げることができました。

 この自由集会の取り組みをもって、翌日の日本小児科学会総会に臨みました。この中で、「原発事故による健康障害に関して検証と調査が必要ではないか」と質問したことに、小児科学会の五十嵐隆会長は「重要項目として、新しい理事会体制の執行部のもとで引き続き検討していく」と回答しました。

 健康被害の究明を求める声を無視できなくなっている現状を示したものとして注目したいと考えます。

明白な甲状腺がん異常多発と健康障害増加の進行(林氏講演の趣旨)

●甲状腺がん異常多発は明白な事実。

●津田論文は、甲状腺がんの桁違いの異常多発と、その多発は原発事故による影響以外の原因が考えられないことを事実で世界に示した。

●甲状腺がん異常多発が国際環境疫学会(ISEE)などで再認識され、異常多発を認める意見が世界の疫学の専門家で圧倒的多数になった。

●日本政府はISEEの提案に応えるべきである。

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