2016年06月17日発行 1432号

【どくしょ室/原発プロパガンダ/本間龍著 岩波新書 本体820円+税/「安全神話」再生の陰に電通】

 2011年3月11日、福島原発事故発生によって原子力「安全神話」は崩壊したはずだった。本書は「安全神話」が誰によってどのように作られたのかを検証し、また、崩壊したはずのその「神話」が今また再生されようとしている実態を明らかにする。

 「安全神話」を作り出したのは、国策として原子力発電を推進してきた自民党政権であり、電力会社、原発メーカーなどの大企業だ。

 電力9社が約40年間に2兆4千億円という途方もない金額を原発プロパガンダ(広告宣伝)に注ぎ込んだ。これに電気事業連合会や政府広報が加わり、宣伝費はさらに膨れ上がった。

 立地県に対しては原発誘致でもたらされる「経済効果」を宣伝し、電力消費地には「原発は二酸化炭素を出さないクリーンエネルギー」と宣伝。学者、文化人、タレントを使い、若者、女性層とターゲットを絞った宣伝手法を駆使した。

 1979年スリーマイル島事故が発生すると、原発が集中する福井と福島の地方新聞は原発広告一色になり、事態の深刻さを覆い隠した。事故は人為的ミスで安全性は変わらず、原発は地域に豊かさをもたらす、と執拗に繰り返された。

 こうした宣伝を企画しメディアに流させたのは、電通など大手広告代理店である。電通は原発プロパガンダを一手に引き受けると同時にメディアの番組や記事の監視も行ってきた。原発に批判的な番組や記事を流せば、電通は広告引き上げの圧力をメディアにかける。広告の独占企業である電通が広告枠を買ってくれなければたちまちメディア企業は窮地に立つため、その意に従うことになる。

 3・11事故以後しばらくの間、原発広告は激減した。しかし、電力会社や電事連の広告費は徐々に復活している。そして新たな「神話」といえる「放射能安心神話」が福島を中心に流されている。「風評被害撲滅」「放射能リスク不安解消」などだ。今も続く放射能放出や健康被害を覆い隠し「安心」を振りまくことで、事故の「終息」を図る。再稼働の合意形成も進めようとしている。そのプロパガンダの中心にいるのはやはり電通である。

 しかし、こうした宣伝は、福島事故の深刻な被害と収束不能の現実の前に成功しているとは言えない。それでもプロパガンダを復活させたのは、多額の広告料を出すことでメディアの事故検証や健康被害などの原発批判報道を抑え込むためだと著者は指摘する。

 元博報堂社員として広告業界とメディアを知り抜いている著者は「大手メディアは私企業である以上、真実を伝えることに限界がある」と言う。だからこそ、原発プロパガンダに抗するために、企業広告に頼らない独立メディアの活動を支援し、大手メディアの広告や報道を監視し、抗議を粘り強く展開していくべきだと訴える。   (N)
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