2016年07月01日発行 1434号

【加速する帰還強要、再稼働 すべてはカネのため 参院選で安倍の原発推進に審判を】

 放射線量が高いままの地域に対する政府・福島県・地元市町村一体となった避難指示解除―帰還政策が加速してきた。6月には葛尾(かつらお)村が居住制限区域として初の解除となった。政府の方針通り進めば、来年4月には、帰還困難区域以外のすべての避難指示区域がなくなることになる。

「居住制限」で初

 避難指示区域は、帰還困難区域(年間外部被曝線量50_シーベルト超)、居住制限区域(20_シーベルトを超え50_シーベルト以下)、避難指示解除準備区域(20_シーベルト以下)に分かれる。これまで避難指示が解除されたのは、すべて避難指示解除準備区域だった。

 6月12日、葛尾村を対象に行われた避難指示の解除では、初めて居住制限区域にも踏み込んだ。解除対象は住民の9割に及ぶ。

 葛尾村での避難指示の解除が今後、飯舘(いいたて)村や川俣町山木屋地区など、他の居住制限区域にも波及するのは確実だ。なぜならこれらの地域は、居住制限区域の「前身」に当たる計画的避難区域に葛尾村と同時期に指定されているからである。すでに、国は飯舘村に対し、居住制限区域の来年3月末での解除を伝えており、飯舘村では、役場業務が村に戻るなど帰還が既定路線になっている。安倍首相は、葛尾村の避難指示解除に当たり「避難指示は来年の3月までには解除し、住民が早期に帰還できるように取り組む」ことを指示した。

 居住制限区域の解除は、原発推進の立場のICRP(国際放射線防護委員会)ですら認めざるを得ない平常時の住民防護の基準、年間外部被曝線量1_シーベルトはもとより、政府自身が避難指示解除の基準としてきた20_シーベルトの基準をも投げ捨てるものだ。国による帰還政策が政府は安全と思うので帰れ≠ゥら安全とは思わないが帰れ≠ニいう新たな段階に入ったことを意味する。帰る人も帰らない人も等しく切り捨てる棄民政策の強化だ。

 さらに、帰還困難区域についても安倍は「どのように復興できるかこの夏までに考えを示したい」と述べた。早ければ夏にも解除が打ち出される可能性がある。年間50_シーベルトは原発労働者の年間上限値であり、2年間浴びれば職場を離脱しなければならないほどの高線量だ。

 南相馬市でも7月12日の避難指示解除で国と市が合意。過去の避難区域解除の際は、放射線量が下がらなくても除染作業実施のポーズだけは見せてきた。それさえないままの避難区域解除は初めてだ。5月に開催された住民説明会では「除染が不十分」「年20_シーベルトの基準自体が高すぎる」との不満が噴出したが解除が強行決定された。

 それでも復興庁は「解除しなければ人は戻らないし事業の再開意欲も上がらない」と居直る。安倍政権は東京五輪競技の一部の福島開催さえもくろむ。グローバル資本のための「復興」を演出できれば住民の命や健康などどうなろうがかまわない―これが「復興」の本質だ。

被曝か貧困か

 避難指示解除準備区域が残っているのに村長が帰還を強行した川内村でも、この6月にすべての避難区域が解除された。だが、高齢者ばかりが村に戻る一方、若い世代は戻らない。

 危機感を持った村は若い世代向け「移住支援策」を打ち出した。1人親世帯を対象に自動車購入費を60万円まで補助するほか、移住する場合に1人当たり5万円を支給する。村内で正社員雇用をする企業への支援とセットになっている。

 許しがたいのは対象を1人親世帯に絞ったことだ。貧困にあえぐ非正規の1人親世帯をターゲットにし、川内村に来れば正社員になれ、貧困から脱出できる≠ニいうメッセージが込められている。あまりの卑劣さに怒りがこみ上げる。「経済的徴兵制」ならぬ「経済的被曝強制」だ。

伊方、7月再稼働へ

 一方、四国電力が愛媛県伊方原発の7月26日の再稼働に向け準備を進めていることが明らかになった。4月に史上初めて震度7を2回観測する熊本地震が起きたが、伊方原発は熊本地震の震源と同じ中央構造線の真上にある。日本列島を東西に貫くこの構造線沿いに震源域が拡大すれば、伊方原発の直下で熊本地震と同規模の地震が起こりうる。四国電力が「安全を最優先で」というなら、再稼働計画は直ちに中止すべきだ。

 命よりカネ、健康より五輪≠フ棄民政策、原発再稼働路線はますます明確になっている。政策を変えるには政治の転換を図ることが必要だ。7月参院選では、改憲阻止とともに、帰還=被曝強要と原発再稼働策動に審判を下さなければならない。野党を前進させ、安倍政権を打倒しよう。



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