2016年07月08日発行 1435号

【未来への責任(203)すべての遺骨を遺族のもとへ(下)】

 3月22日、参議院厚生労働委員会での川田龍平議員の追及に厚労省は「沖縄で戦闘に巻き込まれた方は対象となる」と明確に答えました。朝鮮戦争犠牲者の遺骸鑑定に四肢骨が使われているとの指摘に、塩崎恭久大臣は「歯以外でもDNA鑑定するほど今、科学的な知見の集積は日本でされていない。韓国を含め、どのようなことが科学的に証明可能かをよく考えていく」と回答しました。

 以降私たちは大臣に、四肢骨を中心に鑑定する韓国国防部遺骸鑑識団の写真やソウル大学医学部の博士論文など重要な資料を提示。歯より四肢骨の方がDNA抽出ができ、実際四肢骨から鑑定しているというもので、翻訳して川田議員事務所を通じ大臣に渡しました。大臣はその後、四肢骨について鑑定の対象となるか検討するよう厚労省に指示したそうです。

 3月30日、厚労省が発表した沖縄での遺骨方針の概要は以下の通りです。

 (1)真嘉比(まかび)(那覇市)53件、幸地(西原町)14件、平川(南城市)5件、経塚(きょうづか)(浦添市)3件の歯の検体からDNAが抽出されており、まずこの4か所75件の遺骨(沖縄全体の9割)をデータベース化する。(2)2016年度の早い時期に4か所と関連する2533名の遺族への鑑定呼びかけと鑑定を行う(軍人軍属のみでなく平和の礎(いしじ)に刻銘された一般県民も含むことを後日の追及で確認)。(3)鑑定で身元が特定されなかった場合、原則として遺族のデータは廃棄するが、遺族が希望する場合は一定期間保管し、後日使用する。(4)太平洋地域を含む8000体の遺骨を16年度中にデータベース化する。

 求めていた遺骨検体・呼びかける遺族数・部隊名が情報公開され(部隊名は私たちが後日追及し公開)、とくに遺族の実質的なデータベース化方針が初めて示されたのです。

 5月19日、川田議員が質疑に立ち、ソウル大の論文の内容を明らかにして迫りました。大腿骨や上腕骨のDNA抽出率は歯より35倍高い、韓国では歯の使用率は3・2%でしかない、と。その結果、厚労省は「韓国や米国に視察団を送る調整をしている」と答弁。また、太平洋地域出土の焼骨凍結の課題も国会に提起されました。

 私たちは、戦没者遺骨収集推進法の衆議院厚労委員会通過のとき、なすすべもありませんでした。「我が国の戦没者」に韓国人が入っておらず、そのことが討議されないまま法律が通過した現実に愕然としました。しかし、6次に及ぶ参院議員要請を行い、参院厚労委では韓国人遺骨問題、沖縄戦住民被害者の鑑定参加、沖縄独自保管四肢骨の鑑定、太平洋地域の焼骨停止としっかり課題を投げかけ、成果を得ました。これは、沖縄のガマフヤー(遺骨を掘る人)代表・具志堅隆松さんとともに取り組んだものです。

 「日本人遺族と連帯し、韓国人遺族の問題を解決する」。私たちのこの方針が、両国の遺族の目線から問題を提起し、党派を超える国会議員の理解と行動を得て政府の説得にもつながっていると思います。

(日本製鉄元徴用工裁判を支援する会・上田慶司)

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