2016年07月08日発行 1435号

【参院選報道 「読売」の改憲隠し/見出しから「憲法」が消えた!/安倍の争点隠しに全面協力】

 御用メディアが行う最も悪質な情報操作は何か。それは「報道しないこと」である。世の中で起きている「事実」でさえ、政権にとって都合が悪ければ「なかったこと」にしてしまうのだ。この姿勢が最も際立つのは、安倍応援団筆頭格の読売新聞であろう。「読売」流隠ぺいの手口を沖縄県民大会と参院選をサンプルにみていく。

沖縄県民大会の扱い

 まずは、わかりやすい事例から。6月19日に行われた沖縄県民大会(正式名称「元海兵隊員による残虐な蛮行を糾弾! 被害者を追悼し、沖縄から海兵隊の撤退を求める県民大会」)の扱いである。

 6月20日付の各紙朝刊をみると、朝日新聞は「沖縄の怒り『限界を超えた』」との見出しで1面トップに掲載。総合面や社会面でも参加者の声を中心に伝えた。毎日新聞、東京新聞は1面2番手の扱いだったが、両紙とも社説で触れ、「米軍犯罪の本質は、日米安保のために、在日米軍施設の大半を沖縄に集中させてきた基地政策にこそある」(東京)などと指摘した。

 対照的なのが、読売新聞の紙面である。県民大会の報道は社会面中段に40行程度の記事があるだけ(写真なし)。東大の投手が日米大学野球の代表選手に選出されたことを伝える記事のほうが目立つような紙面構成であった。

 それだけではない。被害女性の父親が大会に寄せたメッセージのうち、「次の被害者を出さないためにも全基地撤去。辺野古新基地建設に反対。県民が一つになれば可能だと思っています」とのくだりを、「読売」の記事は丸ごとカットしている。

 県民大会にいちゃもんをつけまくっている産経新聞でさえ、このメッセージは全文を載せている。安倍応援団を競い合う両紙だが、事実の隠ぺいという点では「読売」のほうが上のようだ。

反対意見は報じない

 参院選の報道もまたしかり。「読売」の編集方針は、憲法「改正」を争点化したくない安倍政権の思惑と見事に合致する。たとえば、公示前に連載していた「参院選の争点」と題する解説記事である。全7回中、憲法を取り上げた回は一度もなかった。

 各党党首の第一声を伝えた6月23日付の朝刊はどうか。1面トップの見出しは「『経済』『社会保障』論戦」。ほかの面の選挙記事をみても、憲法を見出しに立てたものは一つもなし。参院選について論じた社説でも憲法にまったく触れていない。

 「改憲隠し」の姿勢は地方版でも徹底している。一例をあげると、大阪選挙区における立候補者の第一声をまとめた特集だ(6/23朝刊)。共産党の新人候補者の欄をみてほしい。記事本文を読めば「立憲主義を取り戻す。改憲勢力に大阪の議席を預けるわけにはいかない」と訴えたことがわかるのだが、ついた見出しは「身近な政策に力点」。何が何でも読者に憲法を意識させたくないらしい。

 このように、「読売」には“安倍政権が進める政策に反する意見は読者に伝えない“という鉄の掟があるようだ。戦争法反対運動の「黙殺」がそうだった。昨年5月から9月にかけて、紙面に登場した「デモ参加者らの声」はたったの10(延べ人数)。「朝日」214、「毎日」178と比較すると極端に少ない(6/8日本報道検証機構調べ)。

まさに改憲有志連合

 読売新聞元北京総局長で現在はフリージャーナリストの加藤隆則は、古巣の内部事情をこう証言する。「今の政権にくっついていればいいんだと。それ以外のことは冒険する必要はなく、余計なことはやめてくれと。これは事実だからいいますけど、読売のある中堅幹部は、部下に向かって『特ダネは書かなくていい』と平気で言ったんです。これはもう新聞社じゃない」(スタジオジブリ発行の小冊子『熱風』4月号)

 まったくそのとおり。これでは政府の広報紙だ。そんな「読売」のポチぶりは安倍官邸の絶大な信頼を得ている。ジャーナリストの須田慎一郎によれば、ある内閣官房高官は「もう朝日新聞や毎日新聞は読む必要はありませんよ。新聞は、読売の一紙だけ読んでいれば十分」と真顔で言い放ったという。

 では、政府公認の読売新聞さえ読まなければ、情報操作から逃れられるのか。残念ながら、それでは済まない。ほかの全国紙やテレビも、程度の差こそあれ、政権の意向を過剰におもんばかる「読売」化が進行しているからだ。

 今回の参院選では、公示日以降、各政党の党首が集うテレビ討論会は1度しか開かれていない。「安倍首相の遊説日程」を理由に自民党が拒否した結果こうなった。自民としては安倍が厳しい追及を受けて狼狽(ろうばい)する姿を視聴者から隠したかったのだろうが、その作戦にテレビ局は易々と乗っかってしまった。

 政権与党がだんまりを決め込む事柄を追及し、選挙の争点に引き上げることがジャーナリズム本来の役割である。だが、今のメディアは逆に争点隠しの協力者となっている。これでは、安倍が狙う改憲有志連合の一員と批判されても仕方ない。  (M)



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