2016年07月15日発行 1436号

【ほころび広がる安倍の原発復活路線―島崎・規制委前委員長代理が 基準地震動で異議表明】

 原子力規制委員会(以下、規制委)は6月20日、高浜原発1、2号機(福井県)の最長20年の運転延長を認可した。安倍政権の意に沿った延長ありきの政治的決定だ。だが一方、規制委の委員長代理を務めた島崎邦彦東大名誉教授が、大飯(おおい)原発3、4号機(福井県)について意見書を提出して規制委をあわてさせた。高浜原発運転差し止めの仮処分の執行停止を求めた関西電力の申し立ても却下された。事態は政府・規制委の思惑どおりには進んでいない。

でたらめな高浜20年延長

 高浜原発1号機の運転開始は1974年11月。2号機は75年11月。共にすでに40年を超える老朽原発だ。2013年7月施行の改定原子炉等規制法には、運転開始から40年で原則として廃炉にする「40年ルール」が盛り込まれた。40年は「圧力容器が中性子の照射を受けて劣化する目安」で、最長20年の延長はあくまで「例外」規定のはずだった。だが、安倍政権は、「40年ルール」を死文化させ、原則60年にする策動を強めている。

 規制委の決定は、その意に沿って安全より経済的利益を優先させた。そのためにさまざまな抜け道が用意された。

 2基の認可期限となる7月7日までに、詳細な設計を定めた工事計画の認可と運転延長の認可を得る必要があった。しかし規制委は、工事計画の1つで数年かかる蒸気発生器など1次系冷却設備の耐震性を確認する手続きについて、期限後に先送りすることを容認した。耐震性を確認する前に運転延長を認めたのだ。

 しかも、期限後の手続きで有効なデータが得られなくても、設備の補強などをしてやり直せば運転延長が可能になるというデタラメさだ。

 また、新規制基準はケーブルの難燃化を義務づけるが、1、2号機で使われているケーブルは全長1300キロに及ぶ。配線も複雑ですべてを交換するのは難しく、関電は6割を難燃性に交換し、他は防火シートで覆う「対策」を示し、規制委はこれも容認した。先送りされた対策は山積みだ。

圧力容器はボロボロ

 最大の問題は、補強のできない原子炉圧力容器の脆化だ。圧力容器の内壁は核分裂で発生する中性子線にさらされており、鋼鉄は中性子線を浴びるほどもろくなっていく。「脆性(ぜいせい)遷移(せんい)温度」(内部の温度が下回ると圧力容器がパリンと割れてしまう温度)は年々上昇していく。

 事故が起こった際には炉心を冷やさなくてはいけない。それまで高温で運転中の圧力容器に冷却水が注入されると、急激な温度差にたえられず圧力容器が破断する恐れがある。「脆性遷移温度」が高いほど、その危険性が高い。「40年ルール」が導入された理由もそこにある。

 ところが、この圧力容器の脆化についてはまともに審査されていない。

 高浜原発30キロ圏に市のほぼ全域が含まれる舞鶴市の多々見良三市長が「最大60年の運転が可能な設計だという根拠を設計当時の資料で示し、原子炉容器の素材が長期間の中性子照射でどう変化しているかなど、劣化状況のデータも示してほしい」(6/21毎日)と求めているのは当然だ。

地震動は過小評価

 大飯原発3、4号機運転差し止め訴訟の控訴審(名古屋高裁金沢支部)で、島崎氏が提出した陳述書(6/2付)は、関電が基準地震動の策定に用いた方法に「過小評価の可能性がある」とした。

 その要点は、基準地震動の算出に用いられている計算式「入倉・三宅式」は断層面積から地震規模を推定するが、西日本に多く分布する高角の(垂直に近い)断面では地震規模が他の計算式の3分の1から4分の1ぐらいに過小評価される、というものだ。

 島崎氏は「熊本地震が起きて、いろいろ見た結果、やはり入倉・三宅式を垂直に近い断層に適用すると、震源の大きさが小さくなるということを確信した」と述べる(6/17東京新聞)。

 「入倉・三宅式」が過小評価になるのは以前から指摘されていた(本紙1369号参照)。だが、規制委の前委員長代理が原告側証人としてそれを裏付ける陳述書を提出した意味は極めて大きい。

 現に、規制委はあわてて6月16日に島崎氏から聞き取りを行ない、氏の「複数の別の計算式でも計算してみるべきだ」との申し入れを受け、まず大飯原発について再計算を検討せざるを得なくなった(6/17毎日)。

 島崎氏は、大飯原発以外にも高浜原発、玄海原発(佐賀県)などの基準地震動も「実態に即した別の予測式で見直すことが必要」と述べている(6/11時事ドットコム)。それらの運転差し止め訴訟にも大きな影響を与えることは確実だ。

高浜再稼働は却下

 島崎証言は、高浜原発3、4号機の運転差し止めをめぐって「基準地震動はその実績のみならず理論面でも信頼性を失っている」とした福井地裁(樋口英明裁判長)の仮処分決定(15年4月)の先見性を改めて浮き彫りにした。

 6月17日に大津地裁(山本義彦裁判長)は、高浜原発3、4号機の運転差し止めを命じた仮処分決定(3/9)の執行停止を求めた関電の申し立てを却下した。島崎証言の存在は山本裁判長を勇気づけたに違いない。

 仮処分の手続きを規定した民事保全法では、関電は今回の決定に対してさらに争うことはできず、関電が執行停止と同時に申し立てた異議の審理で3月の決定が取り消されない限り、2基の再稼働はできない。

  *   *   *

 安倍政権は原発復活を狙うが、その路線は綻びを見せている。参院選で自公与党の原発復活路線に決定的な打撃を与えなければならない。





ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS