2016年07月15日発行 1436号

【リニア中央新幹線に国費投入/無駄遣い・環境破壊許すな】

 安倍政権は、2045年度開業とされていたリニア中央新幹線名古屋〜大阪間について、開業を8年前倒しするため、国費を投入する方針を打ち出した。アベノミクス「成長戦略」の目玉としたい考えだが、無駄遣い・環境破壊オンパレード、百害あって一利なしの事業であることになんら変わりはない。

財政投融資を投入

 リニア新幹線は、当初、9兆円に上るといわれる建設資金をJR東海が全額自己負担することで、2014年に事業認可された。2027年に東京〜名古屋間を開業。JR東海が建設費の返済を終えるまで8年間工事を中断し、2035年から10年間かけて名古屋〜大阪間を建設、開業させる計画だった。今回の安倍政権の決定は「JR全額自己負担」の方針を変更し、名古屋〜大阪間の工事に国費を投入することで開業を早めようというものだ。

 国が投入する建設資金には財政投融資を利用する。国が国債の一種である財投債を発行して資金を調達するもの。財投債と一般国債との間には明確な区分けはなく、事実上、国が新たな借金を背負う。

 葛西敬之JR東海名誉会長が常務当時の1988年、「(リニア事業費の)3分の1は国の金が必要」であり「ナショナルプロジェクトで推進」すると述べている。初めから国費投入の方向でレールが敷かれていたのだ。

 葛西は、名誉会長でありながら代表取締役としてJR東海に今なお君臨する。今回の国費投入は安倍と葛西の2人が決定したとの報道もある。旧国鉄職員局長を務め、国労組合員ら1047人首切りの「A級戦犯」である葛西と、労働者の「生涯派遣」化を推進する派遣法改悪を強行した安倍。労働者の敵の「首切りコンビ」がリニアを通じて莫大な借金を作り、国民に押しつけようとしている。

グローバル資本にも亀裂

 リニア大阪延伸は、主に関西経済界と関西選出の自民党議員らが推進してきた。

 しかし、リニア計画はグローバル資本内部にも亀裂を生んでいる。9兆円というJR東海の試算を信じる業者はなく、今後どれだけ工事費が増えるかわからないからだ。「たとえ国費が投入されても絶対に参加しない」と準大手ゼネコン社員は言う。

 JR東海の経営危機を予測する声もある。ある外資系大手証券会社は「リニア建設が開始されれば、JR東海への投資は勧めない」と言う。社長自ら「絶対にペイしない」と述べる不採算事業に疑問も持たず突き進むような企業は投資対象として不適切だというのがその理由である。市場でさえ疑問を抱く無謀な計画を、国民の反対を押し切って進める――それがアベノミクス「成長戦略」の正体だ。

 JR東海がリニア建設を進める一方、JR北海道は相次ぐ事故・トラブルにもかかわらず安全対策費もまともに捻出できない。2015年6月には、社員に給与が支給できなくなるおそれがあるとして国が緊急に1100億円もの緊急支援を行った。給与遅配寸前で実質的倒産状態といえる。国鉄「改革」によって生まれたJR体制は限界だ。

市民の闘いも

 市民の闘いも広がってきた。5月20日、リニア沿線7都県住民738人が、事業認可取り消しを求め国を提訴。南アルプスを貫くトンネルの建設地となる長野県大鹿村でも、住民が別の訴訟を名古屋地裁に起こす予定だ。

 反対派住民が建設地の土地の一部を所有し、用地買収にあらゆる方法で抵抗するトラスト運動も始まった。「リニア新幹線を考える相模原連絡会」が神奈川県相模原市のリニア車両基地建設予定地で行うトラストには11人が参加。山梨県中央市でも、市民団体が植えた木を多くの人に立木のまま買ってもらうことで所有者を増やし、用地買収を困難にする立木トラスト運動が始まっている。

 JR東海が開催する説明会は「質問は1人3問まで、1問1答形式の質問や再質問は認めず、制限時間がくれば質問したい人が残っていても強制的に終了」というもので、アリバイ作りのためのセレモニーにすぎない。反対住民の意見に一切耳を傾けないJR東海に対する怒りが闘いの原動力だと原告のひとりは言う。

 参院選で審判を下し、安倍自民と「アベ友」葛西が結託して進めるゼネコンぼろ儲け、市民へのつけ回し、環境破壊のリニア事業を阻止することが必要だ。

ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS