2016年07月15日発行 1436号

【ドクター林のなんでも診察室 172人となった甲状腺がん異常多発】

 6月6日、福島県県民健康調査結果(3月末現在)が公表されました。甲状腺がんは、一巡目「先行検査」で115人、その約2年後の2巡目「本格検査」で57人の計172人が発見され、各101人と30人が手術を受けています。

 本紙1427号では、岡山大学大学院津田敏秀教授による「先行検査」を中心とした異常多発と放射線との関連性ありとの論文が世界の疫学者の多数の支持を受けたことをお伝えしました。その論文では「本格検査」のがん患者がまだ8人でしたが、今回はその7倍です。

 2巡目の検査の意味は、1巡目で直径5mm以上だったがんは除外されていますので、その後大きくなったがんです。その大きさは5・3mmから35・6mmで、平均10・4mmになっています。1巡目から2巡目の約2年でこれだけ大きくなったのです。がんが2〜3年でそれほど大きくなるはずはないと言っていた専門家は間違っていたのです。でも、何の反省もないようです。

 この本格検査での発見率は、原発に最も近い、「先行検査」の2011年度検査地域で10万人当たり49・3、同じく「先行検査」12年度地域で25・0、13年度地域8・3の発見率になります。それぞれ1巡目の検査からの年数で割ると、一年間での発見率は19・7、16・6、5・5になります。これはこの年齢での日本全体の年間発病率のそれぞれ39倍、33倍、11倍ほどです。検査が進めばまだ増えます。これほどはっきりし、世界の環境疫学者の多数が認めている事実を政府に認めさせることが、現在の第一の課題と思います。

 甲状腺がんが多発しているのですから、その他の放射線障害が出ないわけがありません。すでに、妊娠出産に関する障害で、ドイツの科学者が流産と乳児死亡が増加しているとの論文を発表しています。

 私たちも、彼らと共同して分析を開始しています。私はその議論の過程で、関東地方の汚染の問題を再認識しました。11年早川由起夫氏作成の汚染地図では、東京の東の端の数区、千葉県松戸市周辺は、毎時0・25μSv以上の被ばくだったようで、何らかの異常が発生する可能性はあります。これらの地域は極めて人口密度が高いので、調査すれば統計的にも障害の増加が明白になるかも知れません。

 しかし、甲状腺がんとは違い、他の放射線障害は多数の誘因も考慮しなければなりません。流産なら津波や地震のショックや避難行動などが影響するかも知れません。被ばくが原因であることを認めさせるのは甲状腺がんよりさらに困難です。被ばくがなかった震災の調査などとの比較も必要となるでしょう。 

 これらの研究を後押しし、被ばくの害を政府に認めさせるにはさらに大きな運動が必要です。

    (筆者は、小児科医)
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