2016年07月15日発行 1436号

【どくしょ室/沖縄の新聞は本当に「偏向」しているのか/安田浩一著 朝日新聞出版/本体1400円+税/人権を奪われた側に立つ記者たち】

 2015年6月、自民党「文化芸術懇話会」で、自民党議員の「沖縄のメディアは左翼勢力に乗っ取られている」との発言を受け、作家の百田(ひゃくた)尚樹が「沖縄の新聞はつぶさないといけない」と発言した。この暴言に対し沖縄の地元紙「琉球新報」「沖縄タイムス」は、直ちに共同で抗議声明を発表した。本書は、偏向批判を向けられた当事者である地元2紙の記者に取材し、真実を明らかにする。

 沖縄2紙への批判は、基地問題で政府と沖縄県の対立が表面化するたびに繰り返されてきた。「自らの危機感を沖縄の新聞批判にすり替えることで、民意を矮小化するという手立てです」と明快に断じるのが琉球新報編集局次長の松元剛だ。松元は「沖縄紙は確かに基地問題では政府に厳しい論調をとっている。でもそれは、戦争と差別と基地問題に翻弄されてきた沖縄にあって新聞の骨格であり、軸足だ」と語る。

 沖縄タイムスの吉川記者は百田に電話で発言のコメントを求めた。百田は「(2紙を)あまり読んだことはないけど自分とは歴史認識が違う。誰も読まなくなってつぶれてほしい」と答える。吉川は百田の言葉の端々に沖縄への蔑視を感じ取る。また、暴言を引き出した自民党議員に怒りを覚えた。「沖縄を見下し、薄っぺらな認識しか持たない国会議員が少なくない」と語り、「権力側の思いを代弁し、権力側にすり寄る記事こそ偏向報道だと言いたい。そんなメディアに絶対に落ちぶれない」と発言検証記事を締めくくった。

 沖縄の新聞記者が東京支社勤務になると必ず体験することがあるという。「基地がなくなって困るのは沖縄だよね」と語られるのだ。官僚、政治家、同業者が、なんの根拠もなく「基地依存」を信じ切っている。沖縄経済の基地依存はわずか5%。基地撤去でもたらされる経済効果がはるかに大きいことは沖縄の常識だ。

 そうした「基地依存神話」を生み出す背景には、「振興予算」を「エサ」に基地を押しつけられてきた歴史がある。「新報」は「ひずみの構造 基地と沖縄経済」特集で「米軍基地も原発も、負の施設を金で補償し維持してきた。原発立地は地元同意が必要だが、米軍基地については沖縄に拒否権がない」と指摘する。

 昨年、辺野古における海上保安庁の不当弾圧、暴行の事実を2紙は写真とともに現場記者の記事で報道した。海保は「地元紙の辺野古報道は誤報」と在京メディア記者を本庁に個別に呼び出し、説明している。しかし、当の沖縄紙は呼ばれていない。2紙ともに社説で抗議した。このことを大きく報道した全国紙は皆無である。

 本書は、政権側の地元紙「偏向」攻撃は沖縄の民意を矮小化し本土世論との分断を狙うものであり、偏向した本土マスコミがその手先となっていることを鋭く暴いている。   (N)
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