2016年07月15日発行 1436号

【辺野古新基地建設を止める知恵袋 土木技師で抗議船長 北上田毅さんに聞く(下)】

 今後、政府は辺野古新基地建設を進めるために、強行な手に出てくると考えられる。前号に続き、2016ZENKOに参加予定である反対運動の中心人物の一人、抗議船の船長で土木技術者でもある北上田毅(きたうえだつよし)さんの話を掲載する。(6月19日、まとめは編集部)

 「どんな裁判結果になっても、政府がゴリ押しする。その時、工事を止めるためにどうするか。そこが問題だ」

 国地方係争処理委が判断を保留。沖縄県も静観。政府が翁長雄志(おながたけし)県知事の行った「埋立承認取り消し」を覆すには裁判に勝つ以外ない。北上田さんはその次を考えている。

埋立承認の撤回へ

 政府と県が受け入れた和解条項。その第9項「判決に従い、同趣旨に従って誠実に対応する」は制約となるか。土木技術者の観点から工事の進捗に応じた対抗手段、行使できる知事権限を検討した。

 「県が裁判で敗訴すれば、政府はすぐに工事を再開する。最初に、汚濁防止膜を設置するための基礎ブロックを大量に投下する。県民に挫折感を与えるために、急ぐだろう」。埋め立て工事を始めるための準備工事が始まる。ではどうするか。「知事はすぐ、埋め立て承認を『撤回』すればいい。承認自体の瑕疵(かし)を理由とする取り消し≠ニ違い、撤回≠ヘ、実施段階での防衛局の条件違反や違法行為などを理由とする。知事が埋立承認を撤回すれば、国は、また最初から手続きをやり直さなければならない」

 「この他にも、埋立を阻止するための知事権限は多い。設計概要変更の承認もそう。大規模な埋め立て工事には、何度も設計変更が必要となる。岩国基地では8回。今回はそれ以上だろう。これらの設計概要変更申請を知事が承認しなければ埋立工事は頓挫する」

 仲井真前知事時代に提出された設計概要変更申請のうち、美謝(みじゃ)川の切り替えルート変更と埋め立て土砂運搬方法の変更については、承認のめどがたたず、取り下げた。だが、美謝川は最初に埋め立てを行う予定地に流れ込んでいるため、美謝川の切り替えができなければ、埋め立て工事に着手できない。

 「埋め立て工事は大浦湾の奥の区域から施工される。この区域の埋め立てには辺野古ダム周辺の土砂約200万m3を運ぶ。当初の承認願書ではベルトコンベアで運搬するとされていた」

 ところが、ダムの管理者である稲嶺進名護市長が、ダムを跨(また)ぐ架設を認めなかったため、防衛局はダンプトラックによる運搬に変更申請した。その結果、国道を1日592台のダンプが10か月間通ることになる。他の工事車両も合わせると約20秒に1台という大変な通行量だ。これも取り下げざるを得なくなった。

先を見据えて

 「知事権限をさらに強化するために、県土保全条例と土砂規制条例の改正が必要だ。県土保全条例は3千u以上の開発行為を知事の許可制としているが、国等は適用除外となっている。この国の適用除外を外せば、辺野古ダム周辺からの土砂採取もできなくなる。また、昨年制定した土砂規制条例は、外来生物の侵入防止のため県外からの土砂搬入を規制するためのものだが、罰則規定を付けて条例に実効力を持たせるべきだ」

 北上田さんが「辺野古や高江の問題等に関する日々の備忘録」として書いているブログがある。「チョイさんの沖縄日記」(http://blog.goo.ne.jp/chuy)。アクセス回数は現在411万回を超えている。発信者の情報は出していない。だが、公安警察は言うに及ばず、防衛局や県、業者も注目している。「警備業務を請け負った業者との交渉の場で『北上田です』と自己紹介すると、『ブログ見てます』と返された」。

 ブログで次の一手を示す。相手に手の内を明かすようなもの。「どこまで書いていいか、迷うこともある」。だが、工事を進める側は当然知っていることなのに、反対する側では気づきにくいことが多い。そこを明らかにする。いわばこれで対等だ。

 北上田さんは、県民大会後辺野古土砂搬出反対全国連絡協議会のメンバーと打ち合わせがあると言った。辺野古埋め立て用の土砂搬出地とされている地域が、地元の環境保護とともに基地建設反対の声を上げた。15年5月奄美大島で発足し、現在12県18団体が加盟している。北上田さんは2手先、3手先を見据えている。       (終)



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