2016年07月22日発行 1437号

【16参院選 改憲隠しで3分の2 野党共闘の成果を改憲阻止へ 市民運動が政治を変える】

 改憲阻止を最大争点とした2016参院選は、残念ながら改憲勢力を3分の2を阻むことができなかった。だが、野党共闘が実現した32の1人区では前回13年参院選での野党得票率を上回り、11選挙区で勝利した。戦争法強行、格差拡大、社会保障削減など安倍政治に対する批判の声は渦巻いていながら、戦後4番目に低い投票率54・70%。4800万人以上の人びとの意思は示されなかった。政治を決めるのは主権者だ―民主主義実現の流れを確かにし改憲を阻止するために、政治を変える市民の運動がより一層求められている。

改憲勢力の弱点

 戦争法廃止の市民運動を背景に共闘した民進・共産・社民・生活の党の野党勢力は、非改選28を含め67議席にとどまった。自・公・おおさか維新など改憲4党は161議席。無所属の議員などを加えると憲法改正発議の要件である3分の2議席を上回る。

 選挙中、一度も改憲を口にしなかった安倍晋三首相は、この選挙結果を受け、とたんに「改憲に橋はかかった」(7/11産経)と改憲への道を突き進む構えだ。公明党は「改憲勢力ではない」と言い訳するが、改憲手続きを進めることに異論は挟まない。暴走する安倍に伴走するのは誰が見ても改憲勢力だ。だが支持政党を公明党と回答した人の24%が野党統一候補に投票している(7/11朝日、出口調査)。戦争法反対運動の中に支持母体である創価学会の旗があった。「平和の党」を看板とする公明党は支持者にも不信感を広げざるを得ない。

 改憲勢力の伸長を許したのは、安倍が改憲論戦から逃げ回ったからである。安倍が恐れたのは市民の護憲意識だけではない。戦争国家の実像に焦点があてられるのを避けたかったのだ。「対テロ戦争」への参加を表明した日本は、すでに「テロのターゲット」にされている。戦争法発動前の今でも、アフリカ・南スーダンに駐留する自衛隊員は一触即発の緊張下におかれている。集団的自衛権行使を合憲化する改憲は、他国で「殺し殺される」状況を常態化する。

 安倍のごまかしを許さないために、侵略戦争加担の責任を問うイラク戦争検証、戦争法廃止2000万人署名運動を引き継ぐ市民の活動で、戦争法廃止、改憲阻止の声を大きくしなければならない。

「市民と共闘」の効果

 改憲勢力に3分の2議席を許したもの、戦争法廃止2000万人署名運動がつくりだした野党共闘の成果は大きい。13年参院選では、岩手・沖縄をのぞく1人区はすべて自民党が議席を占めた。今回、32の1人区のうち11選挙区で野党共闘候補が勝利した。福島、沖縄選挙区で現職大臣を破った。原発と基地の被害を被っている選挙区で安倍政権ノーの意思表示がされた。

 福島の立候補者は3人だが、事実上、自民党現職の岩城光英(いわきみつひで)法務大臣と民進党現職の増子輝彦元経産副大臣が一騎打ち。約3万票(有権者の約3%)の僅差で野党統一候補が競り勝った。自民は復興事業を前面に押しだしたが、現地では「『復興』とかいいことばっかで、放射線とか都合の悪いことは一切いわない。政治家なんか口ばっかりだ」(7/6朝日)との反応だ。棄民政策への怒りは大きい。13年参院選の野党合計得票率を9ポイント上回った。政府・県政による物言えぬ抑圧に抗する力を野党共闘がつくりだした。

 沖縄では、10万票以上の大差をつけて伊波洋一元宜野湾市長が現職の島尻安伊子沖縄担当相を破った。島尻候補は基地問題を避け、経済振興一本やりで選挙に臨んだ。だが告示直前の県民大会に示されたように、沖縄には基地建設反対の強固な民意がある。沖縄選挙区では自民党国会議員は当選できない。辺野古新基地建設を強権的に進める安倍政権に対する回答である。

 青森、山形では自民から議席を奪いかえした。新潟、宮城、長野では定数減の中で、自民党議席を蹴落とした。北海道では3議席のうち2議席を民進党が占めた。これら東日本の勝利は、自公政権が強行するTPP(環太平洋経済連携協定)ノーの意思が表明されたものだ。

 今回無党派層の56%が野党統一候補に投票している。前回参院選の38%から18ポイント増やしている。明らかに野党共闘の成果だ。共闘実現から野党が勝利するには、基地、原発、TPPなど安倍政権の政策に反対する市民運動との日常的な連帯、共闘を確かなものにすることに尽きる。

市民の政治活動を妨害

 民進党は「今回の選挙では市民が中心となり、これに賛同する政党が集まるという新しい民主主義の形が始まった。この流れを止めることなく、さらに力強くしていく」と声明を出した。共産党も「最初のチャレンジとしては大きな成功」、社民、生活の党も共闘推進で声をそろえた。市民が主導したとの認識が定着することは大きな意味がある。

 安倍首相は選挙期間中最も力を入れたのが野党分断だった。街頭演説では「気をつけよう。甘い言葉と民進党」のフレーズを連発していた。最初から、まともな政策論戦をする気のない安倍だが、なかでも野党共闘、それを支える市民運動に脅威を感じていたことは間違いない。

 安倍政権の意を代弁するマスコミは、野党共闘の効果を低めようとする。だが今回の参院選挙は、政治は市民が決めることを明確に示した。

 では勝利への課題は何か。

 前回を上回ったとはいえ、戦後4番目に低い投票率だ。有権者の約4800万人以上の人びとが投票をしなかった。政治的関心が低いのではない。MDSが比例代表で推薦した社民党福島みずほ候補は、「1%のための政治か、99%の政治かが問われている」と訴え、当選した。まさしく99%の人びとが、生活苦をおしつけられながら、政策選択から排除されているのだ。比例区自民党票の絶対得票率(有権者全体に占める割合)は19・6%。自公合わせて27・0%にすぎない。

 市民が1人1人に働きかける政治活動、選挙運動を制約をかけるのが、公職選挙法だ。戦前、治安維持法とセットで成立した普通選挙法に現在の禁止規定の原型がある。戸別訪問を禁止し、市民が自由に自らの政治主張をすることを許さない。納税義務を負いながら参政権を奪われている在日外国人の存在もある。

 市民の不満を政策化し、正当に意思表示できるよう地域から運動を強めれば、安倍暴走と改憲は必ず止めることができる。

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