2016年07月22日発行 1437号

【ミリタリー これ以上待てぬ地位協定改定 排他的管理権は許さない】

 元米海兵隊員による女性殺害事件は、「日米地位協定の抜本改定」を沖縄の人びとの「これ以上待てない」要求へと押し上げた。米軍活動を最優先する地位協定が米軍関係者の占領意識や植民地感覚を生み、犯罪の温床となっているだけでなく、警察の捜査活動などが著しく阻害されている実態が改めて浮き彫りにされたからである。

 抜本改定とは、米軍に関わる事件、事故が基地外の住民や生活に影響がある場合、米国の排他的管理権を認めないことを意味する。

 今回の事件は、犯罪が公務外であり、県警が「軍属の男」を逮捕したため、地位協定上の問題はなかったように見えるが、実態は異なる。「軍属の男」は、当初の供述から死体を入れたスーツケースや凶器の刃物、被害者のスマートフォンを米軍基地内(キャンプ・ハンセン)に捨てた(隠した)可能性があるが、基地内では直ちに捜査権を行使できなかった。地位協定は基地内の排他的管理権を認め、米側の同意がない限り日本の警察は立ち入りできない。証拠物を迅速に押収できず、逮捕に時間がかかったのはそのためだ。

 米軍基地が事件・事故の発生源の場合はもっと不合理だ。2008年12月の金武町伊芸区被弾事件では県警の立ち入り調査の実現に1年近くもかかったという。

 排他的管理権は基地内に止まらない。04年8月の沖縄国際大学への米軍大型ヘリ墜落事故は象徴的な事件だ。米軍は、消火活動を終えた消防を立ち退かせ、日本の合同現場検証の要請にも応えず、現場の大学構内を3日間も封鎖、占拠。事故に関わるあらゆる物品を基地へと持ち去った。これは、地位協定の「日米相互に援助しなければならない」にも違反する。

 米軍が根拠にしたのは、「日本国の当局は、…所在地のいかんを問わず合衆国軍隊の財産について捜索または差し押さえを行なう権利を有しない」(日米行政協定第17条3項)というすでに公式には存在しない(1953年の改定時に姿を消した)条文である。存在しない旧条文を米軍がなぜ「根拠」とできるのか。改定時に「日本国の当局は、…所在地のいかんを問わず合衆国軍隊の財産について、捜索、差し押さえ、または検証を行なう権利を行使しない」という「事実上の密約」を結んだからだ。

 日米地位協定の条文自体は28条にすぎない。だが、その裏には何千件もの日米合同委員会の合意議事録がある。毎回「密約」がつくられている。この「事実上の密約」が米軍の軍事活動の自由を保障している。

 もう一つ、日米地位協定は被害者側を守らない実態も見逃してはならない。協定に伴う民事特別法では、公務外の不法行為については基本的に米兵個人が責任を負う。支払い能力がない場合が多いので米政府が慰謝料を支払うが、その慰謝料は確定判決の額にはほど遠い「涙金」でしかない。この差額は「日本政府が払うよう努力する」という合意も「努力規定」のため機能していない。被害者が泣き寝入りするケースがほとんどだ。米兵の犯罪や事故は公務外であっても米政府が全額支払うのが当然だ。

 日米地位協定は直ちに抜本的に改定し、住民の命と平和な生活を最優先にしなければならない。

豆多 敏紀
平和と生活をむすぶ会
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