2016年07月22日発行 1437号

【最低賃金引き上げても異常な低水準 最賃1500円は可能だ】

 6月14日、中央最低賃金審議会で塩崎厚生労働大臣は「今年度の地域別最低賃金額改訂の目安についてニッポン一億総活躍プランなどに配慮した調査審議」を求めた。7月末に答申が出され、47都道府県の地方最低賃金審議会は8月に最低賃金を改訂する。

最賃1000円は7年後?

 塩崎は「最低賃金については、年率3%程度をめどとして名目GDP(国内総生産)成長率にも配慮しつつ引き上げていく。これにより、全国加重平均が1000円となることを目指す」と言う。言葉通りでも、現在の全国平均が798円だから今年は平均24円増額。以降毎年3%ずつ引き上げられても、1000円到達は7年後の2023年だ。GDP成長率との連動となればさらに足踏みも起こる。

 2007年改定最賃法が成立した。「生活保護に係る施策との整合性に配慮するもの」とされ、厚労相は「最賃が生活保護を下回ってはならない」と答弁した。しかし、その後も最低賃金での収入が生活保護費を下回り続けた。厚労省は、逆に生活保護費を減額し、最賃でフルに働く場合との比較で逆転現象が解消した≠ニごまかしている。

 2歳と4歳の子どもを持つ母親(30歳)の生活保護扶助費は15万7300円だが、全国平均最賃額で月21日8時間労働しても13万4062円。ここから税・社会保険料が差し引かれ、働くことにかかる経費も必要となる。現状の最低賃金は、憲法25条の「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」すら奪い、貧困を作り続けている。

 安倍政権の「目標1000円」は先の事例で計算すると月16万8000円だ。税・社会保険料などを差し引くと生活保護費を下回る。年収は200万円で相対的貧困層(平均年収410万円の半分以下)にとどめられる。

1500円は世界の常識

 日本の最低賃金は国際的にも異常に低い。各国の平均賃金に対する最低賃金の水準は、OECD(経済協力開発機構)加盟国28か国中25位(38・9%、表)だ。ILO(国際労働機関)も、金額の低さと同時に、全国各地で細分化された最賃制度についても疑問を呈している。

 私たちの要求は全国一律法定最低賃金1500円だ。これでようやく額面で年収300万円になる。

 米国をはじめ多くの国で最低賃金が引き上げられている。

 多国籍企業マクドナルドで働く労働者の時給は、米国では7・25ドル、オーストラリアでは16ドル、デンマークでは20ドル、日本では8ドルだ。ビッグマックの値段はどの国でも4ドル前後にもかかわらず、である。米国の7・25ドルは連邦最低賃金だが、すでにニューヨーク州などはファストフード店労働者らの最低賃金を段階的に時給15ドルに引き上げることを決めた。



 2012年11月にニューヨーク市内のファストフード店労働者数百人がストライキを行った。これを出発点に米国では最低賃金を引き上げる運動が大きな社会運動に発展している。昨年4月15日には全米236都市6万人が参加し、「Fight for $15」(15ドルめざして闘おう)運動が展開された。最賃を引き上げることにとどまらずに、非正規労働者が組合を作って闘うことを大きな目標に組織化が進められている。

最賃上昇でも雇用減少せず

 最低賃金1500円要求に対し、最賃を上げると雇用が減少する≠ニの批判がある。

 米国では20年以上前、経済学者のカードとクルーガーが、ニュージャージー州が最賃を引き上げたが隣接するペンシルベニア州は上げなかった際のファストフード業界を調査。最低賃金を引き上げたニュージャージー州で雇用率の減少は確認されなかった。

 この例を引いてノーベル経済学賞のクルーグマンも、最低賃金引き上げのプラス効果を強調する。「なぜ、そんなことがあり得るのか。労働者は人間だからだ。より多くの賃金を支払えば、モラルの向上、離職率の低下、生産性の上昇など、雇用主にも重要なメリットがもたらされる。最低賃金を引き上げたことで必ずしも職を失うことにならない。最低賃金は引き上げるべき」と主張している。

 法定最低賃金1500円は可能だ。グローバル資本の下請け企業への賃金切り下げ攻撃を許さない闘いと一体で、最低賃金で働く非正規労働者、青年・女性労働者とともに闘いを作り出そう。
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