2016年07月22日発行 1437号

【未来への責任(204)三菱から謝罪かちとる】

 6月1日、三菱マテリアルが中国人強制労働被害者と和解した。

 和解内容は(1)「誠意ある謝罪の証し」として元労働者に1人当たり10万元(約170万円)を支払う(2)記念碑の建設費1億円、遺族などの調査費として2億円を支払う(3)諸問題を解決するための基金を設立する(4)元労働者側は三菱側に対する賠償請求を行わないことを確認する、というものだ。金額が過去の和解事例と比較して高い水準であるだけでなく、三菱マテリアルの下請け企業も含めて対象者が3700人を超え、その解決対象の広さからも歴史的和解と言ってよい。

 さらに、今回の和解で重要なことは、三菱マテリアルが明確な謝罪を表明していることだ。三菱マテリアルは和解文書で「中国人労働者の皆様の人権が侵害された歴史的事実を率直に認め、痛切なる反省の意を表する」と明記し、和解合意書調印式に出席した同社幹部は「長い間つらい思いをさせて申し訳ありませんでした」と発言。調印式の前に、亡くなった元労働者らに黙とうをささげた。

 今回の和解では3人の元労働者が5つの被害者・遺族団体を代表して会社と和解し、残る元労働者や遺族と順次、和解手続きに入ることになっている。三菱マテリアルから和解案が提示されたのは2014年末。それから関係者の粘り強い交渉が続けられた。「生存者が生きているうちに解決を」という思いが関係者を後押ししたものだ。

 福岡県の飯塚鉱業所で働かされた閻(エン)玉成さんは「第2次大戦が終結して70年以上がたち、強制労働問題が一定の解決に至った。これは大きな勝利だ」と和解後の記者会見で語った。もう一人の元労働者は「とてもうれしい。何十年と努力を続けてきたが、(和解までは)容易ではなかった」と語る。また、飯塚鉱業所で父親が強制労働を強いられた50代の男性は「金額の多少はかまわない。被害者への謝罪や犠牲者への深い哀悼の表明は我々の心に届いた」と語った。

 もう一つ重要な点は、今回の和解が多くの朝鮮人・中国人強制労働事件を抱える三菱グループの一角である三菱マテリアルによる和解であるということ。西松建設事件の最高裁判決(2007年4月27日)は日本の裁判所での解決はできないとしたが、請求権そのものは認め、当事者による解決を促した。今和解について外務省の川村泰久報道官も6月1日の記者会見では「民間の当事者間の自主的解決なので、政府としてのコメントは控えたい」としか言えなかった。

 安倍政権下で企業の自主的な和解が困難に直面する中で、今回の和解がそれを突破した意義は極めて大きい。新日鉄住金も三菱重工も韓国の訴訟では敗訴している。アジアでの信頼関係の構築に向けて、過去の問題をきちんと解決することは重要であり、「民間の当事者間の自主的な解決」を政府が妨害することはできない。

(日本製鉄元徴用工裁判を支援する会 山本直好)

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