2016年09月09日発行 1443号

【南スーダンPKO 戦争法の訓練開始 殺し殺される自衛隊に ただちに撤退を】

 戦争法による新任務の訓練が8月25日から開始されている。訓練後、実戦投入されるのは11月に派兵される南スーダンPKO(国連平和維持活動)交代部隊だ。南スーダンは今、内戦に加え国連も当事者となる国際紛争のただ中だ。殺し殺される自衛隊にさせてはならない。


高まる武力行使の危険

 稲田朋美防衛大臣は、8月24日の記者会見で、自衛隊の各部隊の判断で戦争法に基づく新任務の訓練に着手することを明らかにした。

 まず問題になるのは、南スーダンPKOだ。

 戦争法によるPKO法改悪で、自衛隊の任務はこれまで「憲法9条の禁じる武力行使にあたるおそれ」と政府自身が違憲の疑いを認めてきた領域にまで広がった。他国軍とともに武器で防衛する「宿営地の共同防護」、国連職員や他国軍兵士などを武力で助けに行く「駆けつけ警護」だ。

 「宿営地の共同防護」は、「外国の軍隊の部隊の要員が共に宿営するものに対する攻撃があったときは、当該宿営地に所在する者の生命又は身体を防護するための措置をとる当該要員と共同して」武器を使用できる。「駆けつけ警護」は、PKOに従事する者を対象に「生命又は身体に対する不測の侵害又は危難が生じ、又は生ずるおそれがある場合に、緊急の要請に対応して行う当該活動関係者の生命及び身体の保護」を行う業務である。

 この2つだけでなく、「特定地域の保安のための監視、駐留、巡回、検問及び警護」のための武器使用(任務遂行のための武器使用)も認めた。

 これらの状況に際しての武器の使用は、一応「正当防衛及び緊急避難」の場合に限られるとされる。

 だが、すでに2004〜2006年の自衛隊イラク派兵の時、現地の司令官は「危ないと思ったら、撃て」との指示を出していたことが防衛省内の正式文書で報告されている。開始される訓練は、武器使用の要件が緩和された新しい「部隊行動基準」=交戦規定に基づくものとなる。武力行使のハードルは一気に低くなっている。

PKO5原則も崩壊

 南スーダンの深刻な内戦状態は続いている。

 6月28日の武力衝突は270人以上の死者を出し、PKO部隊兵士1人が死亡した。7月には内戦ぼっ発以来最大の戦闘が首都ジュバで発生。300人を超える犠牲者を出した。

 紛争の激化に国連安全保障理事会は、地域防護部隊4000人の増派を決定した。地域防護部隊は、文民施設・市民の保護、重要施設を警備する。いかなる勢力であれ国連施設や文民に対する攻撃準備が発覚した段階で、武力行使に踏み切る権限を持つ。それが南スーダン政府であっても例外ではない。国連自身が、一主権国家への先制攻撃をも辞さないと表明したのだ。

 また、南スーダン政府が部隊の任務を妨げた場合は、武器禁輸の制裁を科すことも検討する。武器禁輸は国連による経済制裁の一つ。これは、安保理が南スーダンの事態を国連憲章第7章に規定する「平和に対する脅威、平和の破壊及び侵略行為に関する行動」に該当する可能性があると認識していることを示す。もはやPKO協力法の枠組みをはみ出している。

 だが、この期に及んでもなお、稲田防衛大臣は「現時点で、PKO5原則は満たしているというふうに思う」と強弁する。その理由は「PKO法上の武力紛争は新たに生じておらず、紛争当事者がいるわけではない」というもの。政府はPKO参加5原則の「紛争当事者」を「国または国に準じる組織」であるとし、南スーダンでの戦闘はそのような組織によるものではないとする。だが、南スーダンの紛争は、独立当時の国軍が大統領派と副大統領派に分裂して繰り広げられており、すでに5原則は破られている。

 内戦が激化する南スーダンに新任務を与えた自衛隊部隊を派遣することは、引き金を引かせるために送り込むようなものだ。殺し殺される前に、自衛隊は直ちに撤退させなければならない。

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(注)PKO参加5原則

 (1)紛争当事者の間で停戦合意が成立 (2)国連平和維持隊が活動する国や紛争当事者が日本の参加に同意 (3)国連平和維持隊が中立的立場を厳守 (4)以上の条件を満たさなければ撤収できる (5)武器使用は生命防護のため必要最小限とする。このうち1つでも満たさなければ派兵できない。

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