2016年09月09日発行 1443号

【どこが「働き方改革」か 労働行政国際基準も壊し 正規・非正規の格差温存】

 安倍政権は8月10日、官邸主導で労働政策を決める「働き方改革実現会議」のメンバーや運営方針を固めた。16人のうち労働者側とされるのは1人で使用者側は2人。残りは安倍首相ら閣僚8人と学者ら5人で構成する。

 これは労働行政の建前すら根本から崩す重大な動きである。労働政策に関する重要事項は、本来、厚生労働省の諮問機関である労働政策審議会で議論して決められる。労働者と使用者の利害が対立することが多いため、公益・労働者・使用者の各代表10人ずつで組織される労政審が答申を出すことは、ILO(国際労働機関)が示す国際労働基準にかなっている。

例外ありきの同一賃金

 安倍政権は、労政審の上に「働き方改革会議」を置くことで、政権とグローバル資本のしたい放題に進めようとしている。しかも唯一の労働者代表とされる神津連合会長は、新日鉄出身であり在タイ日本国大使館に外交官として駐在していたエリート。参院選、都知事選などで一貫して野党共闘や共産党との連携に嫌悪感を示した人物だ。非正規が4割を占める労働者の代表とは到底言えない。

 「働き方改革実現会議」の目玉は、安倍の打ち出した「同一労働同一賃金」だ。

 だが実際はどうか。「専門家」として起用された水町勇一郎東大教授が一億総活躍国民会議(2/23)で報告した「同一労働同一賃金の推進について」に基づいて見よう。

 水町は、欧州の非正規労働者の均等待遇に関する法制度を説明し、「基本的には、客観的な理由がない限り、非正規労働者に対し不利益な取扱いをしてはならない。客観的な理由があれば、賃金に差を設けるなどの取り扱いも認められる」とまとめる。

 日本での導入・実現可能性については、「欧州でも、労働の質、勤続年数、キャリアコースなどの違いは同一労働同一賃金原則の例外として考慮に入れられている。このように、欧州でも同一労働に対し常に同一の賃金を支払うことが義務づけられているわけではなく、賃金制度の設計・運用において多様な事情が考慮に入れられている」「『合理的な理由』の中身について、政府として指針を示すことが有用ではないか」と、義務ではないことを強調し例外づくりを推める。さらに、「同一または同等の職務内容であれば同一賃金を支払うことが原則であることを法律上明確にする」としながら、「この原則と異なる賃金制度をとる場合、その理由・考え方(合理的理由)について会社側に説明させる」と続ける。

 つまり、同一労働同一賃金原則はあくまで一般論にとどめ、当初から例外∞異なる制度≠構想。そのことでグローバル資本の承諾を得ようとするものにすぎない。正社員と派遣労働者はキャリアコースが違えば、同じ労働をしても格差がついて当たり前∞勤務地限定社員だから、正社員と格差がついて当たり前≠ニいう状況が作り出されるのは目に見えている。

 安倍は「同一労働同一賃金を実現し、『非正規』という言葉をこの国から一掃する」と美辞麗句を並べながら、実質的には非正規労働者の待遇の抜本的な改善などめざしていないのである。

労働法制改悪ノー

 臨時国会で安倍政権は、前通常国会に提出されたが7月参院選で争点になることを恐れ継続審議扱いになっている「残業代ゼロ法案」の成立を狙っている。

 また、厚労省は不当解雇の金銭解決の法案化にむけた有識者検討会を開催し、解決金の「実態」は月収の0・84倍に勤続年数を掛け合わせた金額になっていると発表した。10年勤続で8か月分の解決金、雀の涙で解雇自由を導入する法案作りも進められている。

 安倍が「同一労働同一賃金」と言いつつ、「非正規の賃金を正社員の8割にする」と言ったことへの非正規労働者からの批判がネット上に噴出している。「一か月前に通告すれば自由にクビ切れる非正規はリスク背負ってるんだから、『正社員の8割』じゃなく『正社員の2割増以上』の給与を義務付けるべき」。これこそ正論だ。

 非正規労働者とともに最低賃金1500円運動をまきおこし、労働法制改悪を許さない秋の闘いを作り出そう。

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