2016年09月16日発行 1444号

【年金積立金の大損失 政権維持のためギャンブルで大穴】

 安倍政権の下、国民の資産である年金積立金の運用で巨額の損失が連続して生じてしまった。年金積立金は、保険料のうち年金の支払い等に充てられなかったお金で、将来世代の保険料負担が過大にならないよう「安全かつ効率的に」運用されるべきものにもかかわらず、である。

 年金積立金を管理・運用する年金積立金管理独立行政法人(GPIF)は、7月29日に2015年度の運用実績で5兆3098億円の赤字、8月26日には16年度4〜6月期の運用実績で5兆2342億円の赤字となったことを発表した。この原因は、安倍政権が14年10月に運用資産の構成比率(ポートフォリオ)において株式運用を倍増させたことにある。つまり、株というギャンブルにこれまで以上の資金をつぎ込んで大損した結果なのだ。

 GPIFは、参院選直前に15年度の巨額赤字を公表すると自公に打撃を与えるとの思惑から発表を選挙後にずらした。それは、GPIFが安倍政権の意のままに動く機関であることを示した。だが、わずか1か月後に再び次の巨額赤字を明らかにせざるをえなくなった。

 この損失をめぐって安倍政権は「運用実績は長期でみるべき、安倍政権の3年間で38兆円の運用益がある」と打ち消しに必死になっている。全くのウソである。

運用見直しは株価対策

 GPIFの「15年度末業務概況書」は、年金財政上求められる運用利回りを年率0・23%としている。運用が見直された14年10月時点での10年国債の利回りは年率0・5%前後であり、求められる運用利回りを国債運用で得ることができた。国債運用を減らして株式運用を倍増させる必要はなかったのだ。38兆円の運用益の多くは見直し前の結果だ。GPIFはリスクが高くなる株式運用をあえて倍増させた。見直しは年金財政上の必要から出てきたのではなく、別の意図から出てきたものでしかない。

 14年1月の世界経済フォーラムや5月英国の金融街で安倍首相は「GPIFについては、そのポートフォリオの見直しを始め、改革を行う。成長への投資に貢献する」と演説した。株価引き上げのために年金積立金を投入することを宣言したのだ。同年6月のサミットで安倍は、アベノミクスの成長戦略の具体策としてGPIF改革を挙げた。

 こうして運用見直しを国際公約とし、その10月に強行した。株高と円安を政権の命綱と位置づける安倍は、それらを維持するため年金積立金をより多く株に投資させることを狙った。つまり、見直しとは、国民の資産を自分の財布のように扱うものであり、株価対策でしかなかった。そして、GPIFは、株式投資を倍増した結果、巨額な損失を生じさせてしまった。これはそのままアベノミクスの失敗を表すものである。

責任転嫁の負担増許すな

 中国経済の減速や英国のEU離脱などにより世界的な株安が続いている。これまでの株高を維持することは困難な状態にある。株に依存した運用には問題が山積みだ。もし損失が続けばどうなるか。

 今年2月、衆院予算委員会で安倍は「想定の利益が出ないなら当然支払いに影響する。給付に耐える状況にない場合は、給付で調整するしかない」と発言した。損失が続けば年金支給額を減らす、と公言したのだ。国民年金法と厚生年金保険法は、年金積立金の運用を「安全かつ効率的に行う」よう定め、安定的な運用を求めている。安倍政権による運用見直しはこの趣旨から逸脱し、さらには損失を国民に負わせる暴挙である。

 年金の平均年額は、1998年に216万2千円であったものが、14年には200万6千円。約16万円も減少した。加えて介護保険料などの引き上げによって高齢者の生活はますます苦しくなっている。

 安倍政権はさらに年金給付の削減を狙う。支給開始年齢の引き上げや年金課税の強化(控除額の縮小)などまで検討している。

 安心できる老後のために、年金積立金のギャンブル的運用と年金削減をやめ、年金積立金の適正な活用と最低保障年金の創設を求めよう。

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