2016年09月16日発行 1444号

【戦争と貧困拡大の安倍改憲/基本的人権実現めざす改憲反対運動】

 臨時国会が始まる。任期内改憲を諦めない自民党総裁安倍晋三は、原案提出、憲法審査会審議へと歩を進めるつもりだ。自民党改憲案は、権力者の無法を許さず人権保障を押し付ける憲法を権力者が国民を支配する命令書に書き換えるものだ。それは、あらゆる分野で進行する人権侵害を肯定するものとなる。

「時代遅れ」の憲法?

 臨時国会開会は9月26日となった。自民党安倍総裁の任期は2018年9月。民進党党首候補3人はいずれも改憲論議に反対はしていない。改憲への動きは一層加速されるに違いない。

 「改憲の必要性」とされる一つは、憲法の規定が現実にそぐわない、時代遅れという理屈だ。自民党「日本国憲法改正草案Q&A(増補版)」は「時代の要請、新たな課題に対応した改正草案」とうたう。戦争法に反対する学者の中にも、「集団的自衛権は認めないが、自衛隊の存在は否定できないから、条文に規定した方が立憲主義を守ることになる」との意見まである。

 まったくの詭弁だ。「現実に憲法をあわせる」ことは憲法を守らなかった政府の悪政、不法を追認することであり、権力を憲法の制約から解放することに他ならない。

 労働者の権利は守られず、非正規労働者は使い捨て。貧困は教育を受ける機会を奪い、社会保障の削減は健康で文化的な生活を送ることを困難にしている。自民党改憲案は「自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならない」と基本的人権の実現にさえも、「国民の責務」を持ち出す。実現しないのは政治のせいではなく「自己責任」だと責任転嫁をはかる。これが自民党の言う「時代の要請」なのだ。

国の義務こそ明確に

 改憲勢力は憲法を変える=「改革」と叫ぶ。全くちがう。いま最も必要なのは、根本の戦争放棄、国民主権、基本的人権尊重の理念を現実に貫くことだ。例えば、憲法にある国民の義務をどう理解するか。

 27条「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負う」とある。憲法理念に基づけば「(明治憲法の兵役を置き換えた勤労ではなく)労働の権利を有する」のであり、国が労働の場を保障する義務を負うのである。現実はどうか。

 多くの若者が就職活動で資本の値踏みにさらされ、人間としての尊厳を傷つけられている。28条の労働者の団結権、団体交渉権、争議権は実質的には文言上にとどまる。労働者の4割以上が非正規労働におかれ、労働の権利はいつ奪われるかわからない状況にある。政治はこれを放置してはならないはずだ。ところが、自民党政府はむしろ労働法制の改悪に精を出している。

 教育はどうか。26条「能力に応じ、等しく教育を受ける権利」がありながら、高額学費が教育の機会を奪っている。国立大学の学校法人化により独立採算の経営を強要し、教育費の削減を続けている。「奨学金」を受給する大学生は2人に1人。卒業時に何百万円もの借金を背負わせる教育ローンだ。

 憲法が求める「普通教育を受けさせる義務」とは本来「義務教育は、これを無償とする」ことをはじめ国の義務だ。ところが、文科省の調査でも、教材費や修学旅行など公立小学校で1人当たり年間約10万2千円、中学校で約16万7千円が必要だ。無償ではない。貧困家庭の子どもたちが教育の機会を奪われ、貧困の連鎖が続いている。憲法の理念に反する実態がある。

 自民党改憲案は現憲法に1項付け加えた。「教育が国の未来を切り拓く上で、欠くことができないものであることに鑑み、教育環境の整備に努めなければならない」。国の未来のために整える教育環境は一部のエリート養成であり、すべての市民に教育権を保障するものではない。

 30条の納税の義務は、主権者たる国民には能力に応じた公正な税制を求める権利があるのであり、累進課税の強化やタクスヘイブンを阻止する義務が政治にはある。自民党改憲案には一言の言及もない。

 自民党改憲案には随所に国民の義務が書き加えられている。統治のための改憲なのだ。

憲法理念の実現

 現憲法施行から来年で70年。この間ほぼ政権の座にあった自民党は憲法理念の実現に努力するどころか、いま1%の強者が99%の弱者を餌にする新自由主義の政策を強め、あらゆる分野での人権侵害を深刻化させている。「時代の要請、新たな課題」とは規制緩和・緊縮政策が生んだ貧困、格差の拡大を受け入れよというものだ。

 現憲法が定めた地方自治。国と自治体の対等性を地方自治法に明記したのは99年。憲法制定から50年以上経ってからだ。それでも政府はいまだに自治体を国の機関扱いする。沖縄では県民が生活をかけて政治の誤りを正し、権利を守るための不断の努力を続けている。安倍改憲に反対する闘いは、戦争、貧困・格差の元凶=新自由主義政策との対決だ。それは憲法理念実現の闘いでもある。

日本国憲法(抜粋)

第26条 すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。

 2 すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。

第27条 すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。

 2 賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。

 3 児童は、これを酷使してはならない。

第28条 勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。

第30条  国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ。

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