2016年09月16日発行 1444号

【子どもの貧困NHK報道/ネトウヨや片山さつきが大バッシング/貧困の可視化を阻む炎上攻撃】

 NHKニュースの「子どもの貧困」特集がネット上でねつ造よばわりされる騒ぎが起きている。この炎上騒動に自民党の片山さつき参院議員が参戦。「NHKに説明を求める」などと言い出した。片山は自民党改憲草案の起草委員の一人。「貧困の現実を知ってほしい」と訴えた高校生へのバッシングは「改憲後の世界」の先取りといえる。

捏造報道よばわり

 問題の番組は、8月18日放送のNHK『ニュース7』。両親の離婚により母子家庭で育った高校3年生の女子生徒にスポットをあてた。彼女の家にエアコンはなく、夏場は保冷剤を首にあててしのいでいる。中学時代、パソコンの授業についていけなくなったが、パソコンはとても買えない。キーボードだけを買ってもらい家で練習した。

 高校卒業後はアニメ関係の専門学校に進みたかったが、50万円の入学金を工面することができず断念した。「夢があって、強い気持ちがあるのに、お金という大きな壁にぶつかってかなえられないという人が減ってほしい」。そう語る彼女は神奈川県が企画した貧困対策会議に参加した。自分のような子どもの実態を知ってもらうために…。

 8月のこの時期、各局の報道番組はリオ五輪の話題で埋め尽くされていた。そんな中、夜7時台のニュースで子どもの貧困問題を4分20秒を割いて報道したことは評価されていい(貧困化をもたらしている政策への批判がないなど踏み込みは甘いが)。

 だが、この放送がネットで大炎上した。この高校生のものと見られるツイッターから彼女の日常生活が「発掘」され、やれ1000円のランチを食べていたとか、趣味のアニメグッズを買いすぎとか、コンサートに行っていたとか、要は「こいつは貧困じゃない」という誹謗中傷が浴びせられたのである。

 ネット右翼が焚きつけたこの騒動に自民党の片山さつき参院議員が便乗した。片山は「チケットやグッズ、ランチを節約すれば中古のパソコンは十分買えるでしょうからあれっと思う方も当然いらっしゃるでしょう。経済的理由で進学できないなら奨学金等各種政策で支援可能!」とツイート。「NHKに説明をもとめ、皆さんにフィードバックさせて頂きます!」と報道への介入すら匂わせた。

自民改憲案の先取り

 片山さつきと言えば、お笑い芸人の母親が生活保護を受けていた件(不正受給でも何でもない)で厚生労働省に調査を依頼し、「生活保護バッシング」に火をつけたことで知られている。在特会の生活保護叩きデモに参加したことがあるなど、ネトウヨたちとも近い関係にある。

 そんな片山は起草委員の一人として「自民党憲法改正草案」の作成に携わった。改憲の方向性について「国民が権利は天から付与される、義務は果たさなくていいと思ってしまうような天賦人権論をとるのは止めよう、というのが私たちの基本的考え方です」と説明し、大いに物議をかもしたこともあった。

 自著『正直者にやる気をなくさせる!? 福祉依存のインモラル』をみると、“生活保護の不正受給は日本国憲法が原因”と言わんばかりの主張がてんこ盛り。だから、権利ばかり主張することを助長する憲法を変えなければいけない、というわけだ。

 権利の前に義務がある。国家に対する義務を尽くした者だけに相応の権利が恩恵的に与えられる−−これは片山個人の妄想ではない。自民党の改憲草案を貫く思想である。草案24条で「家族の相互扶助義務」を強調しているように、彼らが目指す世界では福祉や社会保障は国の責務ではないのである。

 NHKが報じた高校生の訴えは「子どもの貧困は自己責任ではなく政治の責任だ」という事実を広く世間に知らせるものだった。だから片山たちがかみついた。「貧困の可視化」を防ぐためである。声を上げた当事者を徹底的に叩き、報道した側にも脅しをかけた。テレビ局が今後面倒を恐れ、子どもの貧困問題を取り上げることを避けるようになれば大勝利−−これが連中の魂胆なのだ。

6人に1人が貧困

 しかし、片山たちが何と言おうが、日本社会の貧困化は厳然たる事実だ。相対的貧困率という指標がある。国民全体の所得分布から見て、中間に位置する人の半分以下の所得しか得られていない人の割合を示したものだ。そうした世帯で暮らす子どもの割合が近年上昇し続けている。

 2012年における子どもの貧困率は16・3%。6人に1人の割合だ。ひとり親家庭になると54・6%にはねあがる。OECD(経済協力開発機構)にデータのある34か国中ではワースト1位。しかも日本の場合、政府による所得再配分によって貧困率がかえって上昇するという現象が生じている。税金や社会保険料の負担は重いのに給付は乏しい、やらずぶったくり状態にあるということだ。

 「スマホを持っているから貧困じゃない」といった俗論にごまかされてはならない。安倍政権の新自由主義政策の下で社会全体の貧困化が進んでいる。連中はそれを正当化するために憲法まで変えようとしているのである。(M)



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