2016年09月30日発行 1446号

【生存権を侵害する社会保障制度解体/基本的人権否定する実質改憲】

 改憲にむけた安倍政権の暴走が止まらない。社会保障分野でも各制度を解体させ、社会権を規定した憲法を空洞化させて実質的な改憲を進めている。この攻撃は国民生活を直撃し、格差と貧困をさらに深刻化させるものだ。攻撃と闘いの方向をシリーズで追う。

社会保障制度の切り崩し

 安倍政権は、社会保障制度解体攻撃を生活保護制度から始め、生活保護基準を3回にわたって切り下げた。住宅扶助費や冬季加算の削減も強行した。生活保護基準は国民年金保険料や保育料などに連動するため、各分野にも悪影響が及んでいる。

 命に直結する医療と介護に対しても厳しい抑制と負担増を強いている。後期高齢者医療制度では保険料が連続して引き上げられ、低所得者対象の軽減措置が縮小された。70〜74歳の医療費自己負担2割引き上げや入院時の食費値上げが行われた。介護では、昨年4月以降、要支援者の訪問介護と通所介護利用が段階的に保険給付から外され、特別養護老人ホーム入所資格が要介護3以上に限定された。

 年金についても2013年から3年間連続で引き下げを強行した。併せて児童扶養手当なども削減された。

 安倍政権は、今年度から2018年度までの3年間を「集中改革期間」と位置付け、解体攻撃を強める。社会保障費の自然増1兆円を半分に抑える数値目標を掲げて抑制しながら、権利としての社会保障を自己責任に切り替えることで負担増を狙っているのだ。

系統的な連続攻撃

 2012年2月、社会保障・税一体改革大綱を閣議決定した民主党政権は、消費税増税への「協力」と引き換えに自民党の法案を丸呑みした。それが社会保障制度改革推進法である。

 法案審議の際に、同法案に対し日本弁護士連合会は「生存権保障及び社会保障制度の理念そのものを否定するに等しく、日本国憲法25条1項及び2項に抵触するおそれがある」と声明を発している。

 2012年8月の社会保障制度改革推進法成立から同年12月のプログラム法成立へと続いていく。プログラム法成立と同時に、生活保護切り下げのために生活保護法が改悪され、生活保護申請の壁となる生活困窮者自立支援法が成立している。

 社会保障制度改革推進法とプログラム法が狙うものは、給付抑制の強化であり、利用者負担の増大である。プログラム法は法の目的として「受益と負担の均衡」を掲げており、負担をしなければ給付がないことを前提とする。

 プログラム法の方針と工程の第1弾として2014年6月に医療・介護総合法が成立した。この法によって2015年4月から改正医療法と改正介護保険法が施行され、同年5月に国民健康保険の都道府県単位化などを定めた医療保険制度改革法成立と続く。

 医療・介護総合法で狙われているのは、病床削減や平均在院日数短縮による医療費の抑制であり、高まる介護サービスの抑制だ。抑制とは必要なものの切り縮め、削減に他ならない。その結果、医療難民と介護難民が大量に生み出されることは間違いない。


社会保障原則の変質

 社会保障制度への攻撃は制度の改悪にとどまらず、社会保障の原則も変質させている。各審議会等の報告書では、社会保障を自助・共助・公助と定めることが強調される。社会保障制度改革国民会議報告書(2013年8月)は「自助を基本としつつ、自助の共同化としての共助(=社会保険制度)が自助を支え、自助・共助で対応できない場合に公的扶助等の公助が補完」と説明する。これは、「生活保障の責任は国家にある」とする社会保障の原則を自己責任論に置き換えるものだ。

 この報告書を受け、安倍内閣は社会保障制度改革プログラム骨子を閣議決定した。骨子に従って改悪手順を定めたプログラム法が成立したが、そこでは公助にいっさい触れていない。国家責任を放棄したことに等しい。

 また、共助を社会保険制度とすることにも問題がある。保険は保険料を払えない人を排除する危険性を含んでおり、そのため社会保険は減免や事業主負担・公費負担などの人権原理を導入している。それを共助とすることは人権原理を排除することにつながる。

 社会保障制度解体攻撃とは国家責任から自己責任に切り替え、社会権を保障した憲法を実質的に改悪するものだ。

社会保障運動の発展を

 安倍政権は新自由主義的政策を加速させ、「1%」の利益優先と社会保障制度解体へと突き進んでいる。それは、「99%」にとって社会保障切り捨てにつながり、社会問題化せざるをえない。

 マイナーな課題とされていた待機児童問題が「保育園落ちた、日本死ね」のブログをきっかけに一気に政治問題へと発展した。社会保障解体の内容が知れ渡れば社会的な運動にむすびつく。社会保障解体を許さずその実現を求める運動は、実質改憲を阻止する闘いである。次回以降、具体的攻撃内容を明らかにしていく。      ≪続く≫

日本国憲法

第25条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
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