2016年10月21日発行 1449号【どう見る豊洲移転問題／「都民ファースト」は偽りの看板／利権にまみれた 築地売り渡しの隠ぺい】 |
問題は「空洞」か？東京都中央卸売市場築地の豊洲移転について、「地下空間」の責任問題などを追及する小池百合子都知事に注目が集まっている。だが「誰が、いつ決めたか」を突き止めても、この問題は解決しない。問題は、生鮮食料品を扱う市場施設を高汚染地に、なおかつ市場関係者が欠陥施設と指摘し、反対するのを押しきって移転強行しようとするところにあるからだ。豊洲新市場は安全か。汚染対策工事が終わっても、発がん性物質であるベンゼンなど環境基準を上回る濃度が検出されている。問題視されている「地下空間」の存在は、盛り土による遮蔽（しゃへい）を基本とした汚染対策のいい加減さを示す一例にすぎない。 例えば、汚染物質が検出された地下水。計画では、入れ替えた「健全土」が汚染されないよう地下水位を常にＡ．Ｐ．（旧荒川河口水面を基準とする高さ）＋２・０ｍ以下となるよう汲み上げ、処理することにしている。だが10月３〜５日、21の観測井戸すべてで管理高さを超え、計測不可能（５・０超）もあった。東日本大地震で地盤は液状化。汚染は敷地全体に広がる。 豊洲には、かつて石炭から都市ガスを生成する東京ガスの工場があった。ベンゼン、ヒ素、シアン化合物、鉛などの汚染物質はこの時のものだ。東京ガスは、東京都に売却するにあたって汚染土の除去など対策工事（請負業者清水建設）を01年から07年にかけ行った。ところが08年、環境基準の４万３千倍のベンゼンが出た。東京都はあらたに８４９億円をかけ汚染対策をしたにも関わらず、未だに環境基準をクリアできないのだ。  流通の規制緩和例え安全が「保証」されたとしても、豊洲の施設には多くの欠陥がある。市場関係者に設計の詳細を知らせないまま、工事を開始したことが端的に示している。青果、水産卸、水産仲卸各棟は幹線道路で分断され、限られた連絡路が移動のネックとなり、築地に比べ使い勝手が悪い。各棟も立体構造で上下階への運搬移動に制約を受ける。市場利用者からは「大手流通向けの閉鎖型・物流倉庫」だと酷評されている。万を越える人が毎朝買い付けに集まる「都民の台所」という市場のイメージとは程遠い。なぜこうなるのか。豊洲は築地を移転するのではなく、新たな流通センターの建設を目的としたからだ。 １９３５年に開設した築地市場は、狭隘（きょうあい）化や施設の老朽化などを放置できず、91年から現地での再整備に着手した。だが、99年４月、石原慎太郎都知事誕生とともに、豊洲移転へと舵を切っていく。それは卸売市場法「改正」（99年、04年）による規制緩和の時期に重なる。 公設卸売市場は、少量多品種となる零細生産者の販売ルートを確保し、セリ取引による適正価格の形成・代金決済保証などを通じて生産者、消費者を守る役割を果たしてきた。これに対し、新自由主義による規制緩和は、セリ・入札原則を廃止し、市場外での取引を容認するなど、「自由化」の名のもとに保護規定を骨抜きにしてきた。 10年第９次卸売市場整備計画で豊洲新市場が位置づけ直されるやいなや、都は11年３月、施設設計に入る。別々に発注した３棟すべて日建設計が受注。わずか４か月で設計した。マグロがさばけない狭い店舗や塩水が使えない魚市場。小型運搬車ターレの荷重に耐えられない床。大型冷蔵庫も扉を締められず、想定した10℃には保てない恐れ。築地の実態を調べることなど最初から頭になかったのだ。 旧態依然とした利権構造豊洲移転にはあまりに多くの疑問がある。総事業費約５９００億円。例外のない利権渦巻く「大規模公共事業」だ。土壌対策から建設工事まで、大手ゼネコンが独占した。青果棟は鹿島、水産仲卸棟は清水建設、水産卸棟は大成建設、それぞれを代表者とする３つの企業体（総計21社）が単独応札。建築工事はいずれも99・79％以上の落札率で手に入れている。「口利き」どころか自ら役員を務める会社が電気設備工事を受注するなど疑惑が持たれているのは「都議会のドン」内田茂だ。受注ゼネコンは都幹部職員の天下り先になっている。 ことは豊洲市場だけではない。築地市場を一刻も早く潰さなければ、東京オリンピックの幹線道路環状２号が建設できない。都は築地の跡地再開発を大手不動産会社森ビルに委託。オフィスビルや高層マンションの準備が始まっている。次の利権が控えている。 自民党都議連と対決姿勢を売りにする小池都知事だが、同じ利権構造での権力争いにすぎない。今必要なことは、豊洲移転を白紙撤回し、市場関係者との真摯な協議を行うことだ。小池にその構えはない。小池の掲げる「都民ファースト」は新自由主義に自治を売り渡す姿をごまかす看板以外のなにものでもない。  |