2016年10月21日発行 1449号

【ルポ 保健室 子どもの貧困・虐待・性のリアル/秋山千佳著 朝日新書 本体780円+税/「問題行動」の背後にある貧困】

 本書は各地の公立中学校の保健室を取材したルポルタージュである。著者は、「理解不能」「問題児」と冷たい目で見られがちな子の背景にあるものは何か、そんな子どもたちに養護教諭がどう向き合っているのか、保健室の中でいま何が起こっているか知ってほしい、と述べている。

 保健室に毎日、病気でもないのにマスクを求めて来る生徒がいる。「マスクを買えないから、もらいに来る」と養護教諭は、子どもの貧困を敏感に感じとっていた。近年、増加しているマスク依存の子どもは、自分に自信を持てない子どもが多い。背景に貧困や虐待がある場合が多いという。

 貧困がもたらす生活習慣の問題がもたらされることもある。「しんどい」と保健室にやってきた中1男子は「脂肪肝」と診断されていた。母親はうつ病で食事を作れないことが多く、インスタントラーメンばかりを食べていた。養護教諭は、料理ができなくてもスーパーで惣菜を買えることを教え、食生活を改善した。「小学校までは親と関われないと改善できないが、中学生なら本人に働きかけて自立させていくことができる」とその養護教諭は言う。

 いつも無表情な女子がいた。来室しても何も言わず、養護教諭が他の生徒と応対している様子を観察しているだけだった。そんな日々が続き一年ほどたって、いきなり「保健室の先生へ」とはじまる手紙を書いてきた。そこには、家庭で両親から虐待を受けていることがつづられていた。児童相談所と連携することになったが、保護されるには至らなかった。養護教諭は励まし、高校進学を応援し続けた。しかし、高校を中退してしまう。職を探して自立しようとしたが、母親が邪魔をした。家族は困窮を極める。だが、そんな彼女が両親のために生活保護の申請を出し、自らの自立を目指そうとしていた。

 中学時代の養護教諭との出会いで将来に希望を持てたことが生きていた。

 中学時代に心と体の性の不一致に悩んだ男子は、父親に相談しても受け入れられなかった。クラスの男子からいじめを受け、自殺も考えたという。そんな時に救いとなったのは養護教諭であった。「ありのままの自分でいい」ということを教えてもらい、自分に自信を持てたという。

 両親が共働きの家庭は珍しくないし、貧困家庭、特に、ダブルワーク、トリプルワークが当たり前のひとり親家庭では、親子が顔を合わせる時間さえなく、子どもは孤立しやすい。「つながりの貧困」が生じる。家庭では親にそっぽを向かれては生きていけないため、保健室のほうが本音をさらけ出せ場になっているのだ。保健室には「学校の母性」があるという。

 本書を通じて、「貧困」が子どもの心をいかに傷つけているか、それと向き合う大人と社会に問われるものを考えたい。  (N)
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