福島原発事故による健康被害の増大を政府、原子力ムラはおおいかくしている。これに対し、福島と近隣都県での小児甲状腺がん以外の健康被害の明らかな増加を示す論文が『Medicine』というインターネット専門の著名な国際的医学雑誌に掲載された。共著者の一人、医療問題研究会の森国悦(くによし)さんにその内容と意義を投稿してもらった。
『Medicine』という国際的に著名な医学雑誌に、医療問題研究会の森国悦、林敬次とドイツのハーゲン・シェルブ氏との共著として、「日本の福島原子力発電所事故により汚染された県・都での周産期死亡の増加」と題した論文を発表しました。
その中心的な内容は、第一に、岩手・宮城・福島・茨城・栃木・群馬(以下、6県)、埼玉・東京・千葉(以下、3都県)で周産期死亡の増加を確認したことです。第二に、この増加は原発事故による放射性物質汚染と関連していることを示したことです。
周産期死亡の意味
周産期とは、赤ちゃんが母親のお腹の中にいる在胎週数が22週以後から出産後7日以内の時期をいいます。この時期の死亡を周産期死亡と呼び、基本的に胎外で生存可能な時期に胎児に生存不可能な事態が発生したことを示しています。生存不可能となる事態の要因には、遺伝、薬剤、感染、放射線などがあります。胎児の健康状態を評価する指標として、正確に変化を捉えられ、世界的に最もよく使用されるものです。
出産千人あたりの周産期死亡数を周産期死亡率としています。日本全国の周産期死亡率は、1995年の7・0から2015年の3・7へと減少しています。衛生環境の改善、周産期医療の進歩によるもので、最近では風疹にかかる妊婦が減少したことも減少に貢献しています。
周産期死亡率の変化を分析する際には、減少傾向にあることを考慮し、これまでの動向から予想される値と比較して判断する必要があります。
放射線の影響大
今回の論文は、政府統計である人口動態調査の都道府県別年月別周産期死亡の数値を使用しています。
6県で、事故から10か月後から持続してこれまでの傾向から15・6%の増加(2012年から2014年の3年間で165人の増加に相当)が確認されました。3都県でも、事故以降10か月後から持続して同じく6・8%増(3年間で153人の増加に相当)でした。これらは単なる偶然ではなく、統計学的に意味がある可能性が強い(以下、有意)という結果です。
残りの38道府県では増加傾向はなく、9都県だけの現象でした。
さらに、津波の被害が大きかった岩手・宮城(2県)と放射線被曝の大きかった福島・茨城・栃木・群馬(4県)を比較してみました。
2県では、震災直後の2011年の3月と4月に月予想の70%増というピークがあり、その後予想ベースに戻り、10か月後の2012年1月より15・1%の増加を示しています。それに対して4県では、2011年3、4月に増加はなく、予想ベースで推移した後、2012年1月より17・5%の増加を示しています。
4県で震災直後の変化(=津波などの震災そのものの影響)がなく、10か月後から増加していることから、この増加は震災そのもの以外の要因、すなわち、放射能汚染によることを示しています。
これより、9都県の周産期死亡の増加は放射線の影響と考えることができます。
共同研究の大きな意義
シェルブ氏は、数学者でドイツのヘルムホルツセンター生体研究所の生物統計学者です。正常運転中の原発の周囲で白血病患者が増加していることを明らかにしたドイツ政府の小児がん研究(KiKK)の一員になっています。
福島第一原発事故でも、被曝地域での自然死産や乳児死亡の有意な増加が観られることを発表していました。
私たちは、周産期死亡のデータを把握し、年次変化から6県での有意な増加を確認していましたが、月毎の変化を分析するという高度な解析技術を持っていませんでした。
そこで、ドイツ在住の桂木忍氏を通じて、シェルブ氏に私たちの年次変化の解析図を送ったところ、月次のデータを要求され、彼の解析でも有意な増加を認めたとの連絡をいただきました。その後、2県と4県に分けることを提案し、共通の認識に至りました。
共著での論文発表の運びとなり、私と林氏とで作成した論文を英訳して送り、彼が手直しや作成した解析図を加え、論文を完成させました。専門誌への掲載依頼や査読委員(論文掲載前に専門的観点から評価や検証を行う)とのやり取りをすべてシェルブ氏が引き受けてくれ、何度となく行われたやり取り、補足資料の作成を経て、ようやく『Medicine』掲載に至りました。
この国際的連携の成果は大きいと思います。
世界的に著明な専門誌に載ることは、論文の価値が認められたことでもあります。さらに、世界的な影響力があるだけでなく、放射線被曝の被害を隠そうとする原子力ムラの勢力に打撃を与えることになります。
また、今回の論文は、原発事故による健康破壊が甲状腺がんだけでなく広く存在する可能性を示したものです。今後、包括的かつ広範囲な健康調査が必要であり、そのためにも放射能健診署名の意義は一層高まったと考えます。
|