2016年11月04日発行 1451号

【生存権否定する社会保障解体(4) 貧困拡大の年金カット法案】

 年金カット法案(年金制度改革関連法案)が臨時国会で審議されている。この法案は前国会に提出されたが、年金削減が参院選に影響するとして先送りされていたものだ。

 法案の柱は二つ。一つは年金削減と適用拡大であり、もう一つは年金積立金の運用緩和だ。年金制度の改悪は高齢者の生活を直撃し、悪化させる。安倍政権は格差と貧困をさらに拡げようとしている。

延々続く引き下げ

 年金は物価や賃金の変動に即して改定され、現役世代との所得比が低くならないよう調整されてきた。ところが、政府は、少子高齢化によって年金財政が破たんすると脅し、年金を徐々に削減する手段として2004年にマクロ経済スライドを導入した。

 厚生労働省は、マクロ経済スライドについて「年金額の伸びを調整する(賃金や物価が上昇するほどは増やさない)ことで、保険料収入などの財源の範囲内で給付」と説明する。賃金や物価が上昇するほどは増やさない。つまり、削減を前提とする制度なのだ。

 法案には「賃金・物価上昇の範囲内で前年度までの未調整分を含めて調整」「賃金変動が物価変動を下回る場合に賃金変動に合わせて年金額を改定する考え方を徹底」とする内容が盛り込まれた。

 「未調整分を含めて調整」とは、マクロ経済スライドの実施見送り分を後でまとめて実施し、事後に年金を実質的に引き下げるものだ。

 「賃金変動に合わせる」とは、賃金と物価の変動に応じて低い方に合わせて年金を改定することだ。

 賃金も物価も上がった場合、賃金の上がり幅が大きい時は物価に合わせ、物価の上がり幅が大きい時は賃金に合わせる。ともに下がった場合、賃金の下げ幅が大きい時は物価に合わせ、物価の下げ幅が大きい時は賃金に合わせる。賃金が上がって物価が下がった場合、物価に合わせる。賃金が下がって物価が上がった場合、賃金に合わせる。

 すなわち、どんな場合も年金は実質的に削減される。マクロ経済スライドの終了時期は2044年度。削減は約30年間も続くのである。


問題残す適用拡大

 10月から501人以上の企業に働く短時間労働者にも厚生年金保険・健康保険が適用されることとなった。法案は500人以下の企業でも適用することを求めている。このこと自体は一歩前進といえるが、問題が残されている。

 これまでは、年収130万円以下の短時間労働者で配偶者の被扶養者の場合、年金保険料負担なしで配偶者と同じサービスを受けられることになっていた。ところが、10月からの適用では年収106万円を超えると配偶者の保険から外れて保険料負担が生じる人が出る。ある試算では、160万円を超えなければ世帯の実質収入が減ることになる。30万円もの増収がなければ生活は悪化するのだ。

 運用拡大は短時間労働者全体に効果が及ぶ。この問題は最低賃金の引き上げなどで早期に解決しなければならない。

 15か月間で10・5兆円の巨額赤字が生じた年金積立金問題。何一つ反省することもなく、法案には、法律で認められていないリスクの高い運用を可能とするいっそうの改悪が盛り込まれた。

攻撃許さず廃案へ

 今後の年金支給開始年齢の引き上げが政府の委員会で議論されている。支給開始を1歳遅らせると5千億円の「削減効果」があるという。65歳定年制も確立していない現状では、無収入の高齢者が大量に生み出されてしまう。

 年金への課税強化や保険料拠出期間の延長も検討されている。課税控除額を減らせば、課税額が増える。それは医療保険や介護保険の保険料の引き上げを伴い、実質収入が減ることになる。

 このように安倍政権はあらゆる手法で年金を減らそうとする。グローバル資本にまわす財源確保のためだ。

 年金削減は、国家財政の改善にもつながらない。年金が減ると生活保護受給者が増えざるをえず、その分の国家財政を必要とするからだ。

 国連は2013年5月に、「高齢者の貧困に対応するために、年金の最低保障額を導入すること」などを日本政府に勧告した。勧告に従い、公費による最低保障年金制度を確立させなければならない。それとはまったく真逆の、貧困を拡大する一方の年金カット法案は廃案以外にない。
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