2016年11月18日発行 1453号

【福島第1原発事故/「安全より利益」が根本原因/責任は国と東電に】

 全国各地で30件近く起こされている原発賠償訴訟の先陣を切って、群馬訴訟が10月31日に結審を迎えた。福島原発事故の真相を明らかにし、事故を引き起こした東電と規制権限を持つ国の責任を断罪し勝利判決をかちとると共に、事故原因を明らかにし、再稼働を阻止しなければならない。

 責任論(東電と国の責任を明らかにする)の分野では、(1)津波の予見可能性と(2)結果回避可能性(シビアアクシデント対策)が2本柱になっている。それぞれの内容を簡単に確認しておこう。

巨大津波は予見できた

 2011年3月11日に東北地方を襲った大地震で外部電源が途絶え、その後原発敷地を襲った巨大津波で自主電源(バッテリーや非常用ディーゼルエンジン)が水没し全電源を喪失したというのが、福島原発のメルトダウン(炉心溶融)に至る主たる要因だ。

 その巨大津波は「想定外」だった(東電・国の主張)のか、想定内だったのかが第一の争点となっている。

 この問題に関しては、2002年7月に文科省の地震調査研究推進本部(推本)がまとめた「三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価」が公表され、三陸沖から房総沖の間のどこでも(特に過去に起きたことのない海域で)巨大津波を引き起こす巨大地震が起きる可能性を予測していたことが明らかになっている。これを適用すると津波高が敷地高を超え、莫大な対策費用がかかることを恐れた東電は、この予測を無視し、津波対策を行なわなかった。

 このことは、原発推進勢力IAEA(国際原子力機関)の事務局長報告でも「日本国内の有史データだけを考慮した手法を用いたことが津波を過小評価した一因」と指摘しており、東電・国の言い分は国際的にも否定されており、決着はついている。

全電源喪失は回避できた

 もう一つの論点が、IAEAの安全指針である5層の「深層防護」という考え方の第4層(シビアアクシデント対策)の未実施だ。これは、「想定外」の地震や津波で全電源を喪失する事態が発生した場合の対策を講じておくことを指す。

 この問題については失敗学会(注)が報告書を発表している。ここでは、福島原発事故の原因を(1)直流電源の喪失(2)交流電源の喪失(3)最終排熱系の機能喪失という観点から検討し、事故前に知り得た知見に基づき、これらを防ぐ最小限の措置を検討している。具体的には、高圧電源車、直流バッテリー、海水予備ポンプの配備冷却、設備の水密化(浸水防止)などで対応可能だという。これらは、事故後に政府が対策を指示しすぐに実行されたものばかりだ。

 これらの対策を指示しなかった国と実施しなかった東電には結果回避義務違反がある。

 東電と国に原発事故の責任があることは明らかだ。

使われなかった冷却装置

 さらに、今も不問にされている決定的な問題がある。それは、緊急用に装備されている高圧注水装置(HPCI)を使わなかったことだ。

 事故の際に実際に使われたのは1号機では非常用復水器(IC)、2〜3号機では原子炉隔離時冷却系(RCIC)だったが、これはあくまで補助装置であり主力はそれらの7〜10倍の注水能力を持つHPCIだ。

 実は、フクイチの2号機は1981年と1992年の2回、原子炉の水位低下で原子炉が自動停止し、HPCIが作動していた。電力会社にはできるだけHPCIを使いたくない事情がある。稼働中の高温の炉心を急速冷却すれば炉心が脆(もろ)くなり、ひび割れや破断しやすくなるからだ。そうした意向に応えるように、93年に原子力安全委員会の作業部会が「30分以上の全電源喪失は考慮する必要はない」との基準を示している。これは、電源が回復するまでの30分間冷却できればいいとの意味だ。

 2010年にもフクイチの2号機では外部電源喪失事故が起こったが、その時はRCICを起動させて事故は収束した(HPCIは起動せず)。東電は、93年以降に緊急時でもすぐにはHPCIを起動させないよう社内マニュアルを変更したと考えられるのだ。

 HPCIは直流電源があれば起動し、あとは原子炉の蒸気で動き続ける。ただし、注水能力が大きい分だけ稼働には高圧の蒸気を必要とする。 今回も最初からHPCIを起動していたら、最悪の事態は回避できた可能性が高い。
緊急用に装備されている冷却装置を使わなかったのは、原子炉を守る≠スめだ。人命や安全より企業利益を優先させたことが、メルトダウンを招いた直接の原因だ。東電と国の罪は重い。

 真相究明も対応手順も明らかでない中、再稼働など論外と言わねばならない。

(注)失敗学会…社会・企業・個人の失敗・事故などの原因を究明し、未然に防ぐ方策の提供を目的に活動している特定非営利活動法人

◆参考文献…烏賀陽弘道『福島第一原発 メルトダウンまでの50年』(明石書店)、松野元『推論トリプルメルトダウン』(創英社/三省堂書店)

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