2016年11月25日発行 1454号

【憲法審査会再開/「改憲ありき」は許されない/憲法理念の実現が先だ】

 国会の憲法審査会が再開する。参議院は11月16日、衆議院は17日だ。

 憲法審査会は「(1)日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制についての広範かつ総合的な調査、(2)憲法改正原案、日本国憲法に係る改正の発議又は国民投票に関する法律案等の審査」(国会法)を行うとして衆参両院に設置されたもの。昨年6月4日、自民党・公明党・次世代の党が推薦した参考人の憲法学者3人全員が、当時国会審議中の戦争法案について「憲法違反」と明言して以来審議は止まっていた。

改憲に誘導

 国会は自民党、公明党、維新の党など改憲派が国会による改憲発議に必要な3分の2を占めている。民進党も党綱領で「未来志向の憲法を国民とともに構想する」としており、決して「護憲」ではない。

 衆院憲法審査会の各党幹事・委員は改憲項目について次のように述べている(11月4日・読売)。

 自民党・中谷元―環境権、緊急事態条項

 民進党・武正公一―国民の知る権利、環境権、道州制

 公明党・北川一雄―緊急事態条項、自衛隊の存在と役割を明記

 維新の党・小沢鋭仁―道州制、教育無償化、憲法裁判所設置

 どれも、現行憲法の下での法制度の整備で済むことだ。

 環境権を「良好な環境の下で生活する権利」とするならば、「アワスメント」と揶揄(やゆ)されるような事業者有利の環境アセスメントではなく、厳格な法規制を置けばよい。第一、沖縄県の辺野古や高江で基地建設を強行し環境破壊をしているのは誰あろう安倍自公政権自身だ。

 知る権利にしても、情報公開の際に墨塗りだらけの情報開示しかしないのも政府・自治体・議員連中だ。

 道州制については、憲法は地方公共団体の区分を都道府県・市町村と規定してはいない。導入しようとするなら、「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、法律でこれを定める」(第92条)であり、地方自治法の改定で済む。

 憲法裁判所の設置も必要ない。裁判所が憲法の定めるところによって本来の役割を果たし、違憲立法審査権を行使すればよい。

 教育無償化も法律・予算事項だ。現に民主党政権下で高等学校の授業料実質無償化は実現し、現政権下でも所得制限付きで実質無償化されている。そもそも、日本は教育費の無償化推進を流れとする国際人権規約や子どもの権利条約に加入しており、「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする」(第98条)との憲法規定にほおかむりする彼ら政府・国会議員の責任だ。

 各党とも自らの怠慢や民主主義軽視を棚に上げ、本音は隠している。

本丸は憲法原理

 改憲派が狙う本丸は、国民主権・平和主義・基本的人権の尊重という3つの原理だ。

 自民党は「憲法改正草案」で明らかなように、自衛隊を軍隊とし緊急事態条項=首相への非常大権の付与など、三大原理のすべてを覆そうとしている。公明党の「自衛隊の存在の明記」は戦力保持を意味し、緊急事態条項創設も国民主権に反する。

 維新の党は最も姑息(こそく)だ。発表した「憲法改正原案」は前述の3点のみの改憲だが、どれも改憲を必要としない。だが、戦争法審議過程では安倍の補完勢力としての役割を果たした。橋下前大阪市長は、共同代表時代に武器輸出推進を公言した。松井代表(現大阪府知事)は独自核武装も「政策選択の一つ」と述べ、沖縄・高江の機動隊差別発言問題では「反対派が悪い」と隊員を擁護。人権感覚のかけらもない。聞こえの良い3点の「お試し改憲」の後は、平和主義や基本的人権の尊重に手をかけないわけがない。

 安倍政権の立憲主義破壊を批判する民進党も「海外の紛争に武力をもって介入しない。それが憲法9条の平和主義の根幹」(政策集)と強調するのみで、海外のみならず一切の武力行使を禁じた平和主義をあいまいにしている。

 改憲前提の論議の行き着く先は、憲法原理の全面破壊だ。

違憲状態の解消から

 憲法審査会の責務として第一に挙げられているのは、日本国憲法についての「広範かつ総合的な調査」だ。よって、改憲ありきの議論ではなく、まず、現憲法下の法制度の調査をしなければならない。

 果たして戦争法が憲法に合致しているのか。憲法が保障する生存権をはじめとする基本的人権は尊重されているのか。それこそが問われなければならない。

 戦争法が違憲であることは昨年の憲法審査会の参考人の証言をはじめ国会審議でも結論は出ている。

 労働者の人権を守る労働基準法の改悪、非正規雇用の拡大とブラック企業の横行が労働者の生存権を脅かしている。

 生活保護給付や高齢者を巡る年金・介護給付の相次ぐ切り下げは、経済的弱者の生存権を奪う。

 改憲を口にする前に、憲法理念を実現することこそが国会の義務だ。

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