2016年12月02日発行 1455号

【ドクター林のなんでも診察室 法外に高い抗がん剤「オプジーボ」】

 がんの「特効薬」と発売された抗がん剤「オプジーボ」は、「免疫チェックポイント阻害薬」という新しい系統の薬として小野薬品工業と米BMS社の共同開発で世界に先駆けて日本で製造販売承認されました。肺がんにも使われ、1人当たり3500万円、財務省試算で年間1・7兆円。最近5割引が決まりましたが、それでも法外に高い値段です。その上、効果も怪しい。

 『医問研ニュース』にこの薬の批判を寺岡章雄氏が書いています。私も、再発した肺がんへの「効果を証明した」とする論文を検討し、がんが進行(悪化)する人達の方が進行しない人達よりはるかに延命した、というミステリアスなデータを発見。効果は疑わしいと書きました。JIP(医療ビジランスセンター)の浜六郎氏はさらに詳しく批判をまとめています。

 案の定、10月の欧州臨床腫瘍学会で再発肺がんにこれまでの薬以上の効果がなかったと報告されました。「専門家」としては、よほど自信がないと効果がないとは言えませんから、本当は効かないものだと思われます。

 他方で、「キイトルーダ」という日本語とすれば冗談のような名前の薬は、「オプジーボ」が効果を示せなかった再発でなく、最初の治療薬として効果があったとの報告がされています。肺がん患者をこの薬が効きそうな約6分の1の患者に絞ったことで、「オプジーボ」よりは効果を明白にできたようです。

 窮地に立ち、株価も急落した小野薬品工業は10月24日特許権侵害で「キイトルーダ」の製造販売差し止め訴訟をおこしました。とはいえ同社は「オプシーボ」でぼろ儲けをしています。

 効かない薬に画期的新薬として公費をつぎ込んでいるのが今の政府です。結果、日本の1人当たり薬剤費は世界2位。一方、医療・介護機関への予算配分はどんどん絞られ、例えば日本の人口当たり医師数はOECD(経済協力開発機構)34か国中29位(2013年)です。

 今や、急性期と呼ばれる一般の病院に入院すれば、その時から次の行き場所探しが始まります。急性期病院の条件が厳しくなり、患者が長く入院すると、病院に支払われる金額が極端に下がり、やっていけません。最近は特に締め付けがきつく、急性期の一般病床が2014年3月から15年4月で、38万床から2万床以上減りました。患者は重症のまま看護師が約半分の「地域包括ケア病棟」に移されます。玉突きで病院から追い出された患者は在宅や介護施設へと無理を承知で押しやられます。

 岩波新書『ルポ 看護の質』にリアルに描かれている医療現場の疲弊と患者サービスの悪化を知ると恐ろしくなります。医療・介護現場の予算を削り取って、軍需や製薬巨大企業へ貢ぐ政策と闘いましょう。

     (筆者は、小児科医)
ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS