2016年12月02日発行 1455号

【貧困の連鎖断つ奨学金へ/制度拡充求め市民集会開く】

 給付型奨学金の創設に向けた検討が文部科学省のチームや自公両党の作業部会で進められている。しかし、議論は非公開で、「来年度は私学下宿生で先行実施」(11/15NHK)「低所得世帯一部で先行」(11/18朝日)といった断片的な報道が流れるだけだ。

 貧困の連鎖を断ち、若者の学びと成長を社会全体で支える制度とするため一層の世論の盛り上げを図ろうと、奨学金問題対策全国会議などは11月14日、都内で「奨学金制度の拡充を求める市民集会」を開いた。

 文科省から高等教育局学生・留学生課長が出席し、給付型奨学金制度の検討状況を報告。「世帯の年収が子どもの進学先に影響」などのデータを示し、「家計がきびしい世帯のお子さんの進学を後押しするには給付型は有効」と説明しながらも、給付額や対象者の要件については「検討中」「さまざまなシミュレーションをしている」と明らかにせず、財源は「財政当局と鋭意折衝中」と述べるにとどまった。

 来年度の進学者から適用される「所得連動返還型奨学金」についても、導入が可能になった理由を「マイナンバーにより返済者の所得が捕捉できるので」とし、年収ゼロでも月2千円を返還させる新制度を「これで随分楽になると思う」と自画自賛した。

 これに対し、続いて発言した東大大学院教育学研究科教授の本田由紀さんは「給付型奨学金の対象が特定の範囲に限られると、その人びとが憎悪の対象になってしまう。『甘えている』『なまけている』といったバッシングが、時には国会議員からも、向けられる事態がすでに起きている」と懸念を表明。貧困家庭の子の学習を支援するNPO法人キッズドア理事長の渡辺由美子さんは「文科省の予算の中で財源をやりくりすると聞いてびっくり。教育予算は先進国で一番少ない。企業の内部留保360兆円から毎年0・1%拠出してもらうだけで、無利子奨学金の予算3378億円をまかなえる。お金はある」と強調した。

 返済当事者もマイクをとる。「食費を切り詰め1日500円以下で生活する学生、大学と家とバイト先を往復しながら暮らす学生がたくさんいる。そんな社会を後輩に残したくない」「月4万円返している。勤めたIT企業は“飛び込み営業”でノルマを達成、帰宅は深夜。転職し、返還猶予を申請したが、前年度収入が基準の300万円をわずかに超えていて不受理に。返したくても返せない人にはどうしようもない問題だ」

 閉会あいさつに立った岩重佳治弁護士は「この運動を始めて5年。制度の改善が進んだのはいいことだが、現場の深刻な状況は変わっていない。アルバイト漬けの生活で学業もままならず一日一日生きるのが精いっぱいなのに、“規則だから”と冷たく突き放されて救済制度が使えず、悪いことをしたかのようにレッテルを貼られて悔しい思いをしている人がいる。これらがすべて解決して初めて“奨学金”と呼んで恥ずかしくない制度になる。当事者の声に謙虚に耳を傾け、知恵を出し合おう。“学生に甘える”のはもうやめよう」と呼びかけた。

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