2016年12月09日発行 1456号

【1%のためのTPPと関連法案 発効不可能でも突進する安倍政権 国会強行通過を許すな】

 昨年「大筋合意」し、その内容が公表されたTPP(環太平洋経済連携協定)は、推進側からみても全く見通しがたたなくなった。米次期大統領トランプは、早々と就任当日の離脱を宣言。安倍のトランプとの会談は離脱方針に何の影響も与えなかった。

 TPPは6か国以上の国内手続終了で発効となるが、その国内総生産(GDP)合計が85%以上を占めていなければならない。米国だけで署名国全体のGDPの6割を占める現状で、米国抜きでの発効など不可能だ。ところが、安倍政権は、TPP批准案と関連法案を衆院で強行採決した上、参院通過へ会期延長まで強行し突き進んでいる。

 背景に一体何があるのか。

狙いは国内対策

 安倍政権も、TPPが現実に発効する可能性がきわめて低いことは百も承知だ。なお急ぐ真の狙いは、「国内対策」と称して日本の社会構造をよりグローバル資本本位―新自由主義的に規制緩和し作り替えることにある。

 支給額の削減へ衆院強行採決までした年金制度に対する攻撃もその一環だ。改悪法案では、物価が上がっても賃金が下がればそれに合わせて支給額を引き下げられる。物価が下がっても同じだ。支給開始年齢引き上げも狙われている。「制度あっても支給なし」で国民皆年金は崩壊。生活苦から高齢者はいつまでも働くか、年金制度のすき間を埋めるような民間保険会社の年金に入らざるを得なくなる。

象徴的な農業つぶし

 TPP対策と称して資本に都合のよい改変を迫る象徴が農業分野だ。農家の生活を支えてきた農協に「改革」の名で攻撃がかけられている。特徴的なのが、購買事業や酪農指定団体の縮小・廃止だ。

 農家のために農協が生産資材などを販売する購買事業が縮小すれば、商社や流通大手企業がその分野に参入できる。グローバル資本による農協事業の強奪だ。同時に、利潤ではなく本来助け合いのために行われていた農家向け生産資材の販売が企業の儲けのために行われるようになる。

 酪農家が生産した生乳を農協系団体が全量引き取り、流通させる仕組みである「指定団体制度」によって、現在、酪農家には生産調整に協力する代わりに国から補助金が支給されている。安倍政権の「改革」は、指定団体による全量買い取りを廃止し、生産調整に協力しない「意欲ある農家」や企業にも補助金を支給しようとするものだ。だが、コメと異なり長期保存が不可能な牛乳・乳製品の安定供給のために生産調整が重要であることは、流通に携わる民間企業でさえ理解し、指定団体制度廃止に反対している。

 かつて、農家が生産調整に協力する代わりに、国や農協が農家から全量を買い取るコメの食糧管理制度があった。指定団体制度はいわば酪農版の食管制度だ。食管制度がなくなった後、米価は暴落し、農家はコメ専業では生活できなくなった。同じように、指定団体制度を廃止すれば、牛乳・乳製品の価格は供給過剰で暴落、酪農家を直撃する。グローバル資本は、生産調整に協力せず、過剰生産となっても海外輸出でぼろ儲けだ。

 政府が大宣伝する「バター不足」の原因は、海外からの乳製品の輸入を増やしたため国内酪農家が相次いで離農したことだ。1993年のコメ大凶作の直後、日本がWTO(世界貿易機関)協定を批准、食管制度を解体したように、政策の失敗を新自由主義的改革で覆い隠そうとしている。

 政府の規制改革会議は、グローバル資本の意に沿うような一方的な審議で農業「改革」案をとりまとめた。労働、医療、介護などあらゆる分野で同様に新自由主義的規制緩和が加速されようとしている。

海外では相次ぎ中断

 石原TPP担当相はISDS(投資家対国家の紛争解決)条項に触れ「(食の安全や環境保護など)公共の福祉目的の措置が提訴されることは考えられない。むしろ日本企業の海外展開に重要な制度だ」と公言している。

 だが、ベトナム、チリ、ペルー、メキシコは国内手続きを中断。オーストラリアも年内の採決を見送った。日本やニュージーランドが国内手続きを強行する背景に「TPPを口実にさまざまな制度改正をしたい国内の政治情勢がある」と指摘するのは、ニュージーランド・オークランド大のジェーン・ケルシー教授だ。

 世界では多国間貿易協定に反発する流れが生まれている。EUと米国の間のTTIP(環大西洋貿易投資連携協定)では、市民が被害を受ける貿易協定に参加国から批判が上がり、交渉が行き詰まっている。

 米国の市民は、NAFTA(北米自由貿易協定)を通じて企業だけが利益を得て一般の市民が多くを失うという経験をした。彼らは「もうたくさんだ。自分たちの未来は他国や企業が決めるのではなく、自分たちが決める」と声を上げ、大統領選候補の政策まで左右した。日本でも99%の市民が声を上げ、1%のためのTPPと関連法案、「国内対策」を葬り去ろう。



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