2016年12月09日発行 1456号

【憲法審で出た自民の本音/天皇の地位は「神勅」による!?/国民主権、立憲主義を全否定する】

 憲法審査会の再開にあたり、自民党は2012年に策定した改憲草案を「そのまま提案することは考えていない」(保岡興治・党憲法改正推進本部長)と強調する。審査会を軌道に乗せることを優先した対応だが、ごまかされてはならない。憲法を「国民を縛るための道具」に変質させようとする連中の魂胆は少しも変わっていない。

安倍首相も同じ認識

 11月17日の衆院憲法審査会で驚きの発言が飛び出した。自民党の安藤裕(ひろし)議員が「本来、天皇の地位は日本書紀における『天壌無窮(てんじょうむきゅう)の神勅(しんちょく)』に由来するものだ」と主張。「皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する」と定めた憲法2条の早期改定を求めたのである。

 言葉遣いが古すぎてわかりづらいが、天壌無窮の意味は「天地と同じように永遠に続くこと」。神勅とは「神の命令」である。要は、“天皇の地位は神の命令にもとづく永遠のものであって、法律で規定するようなものではない”と言いたいのだ。

 事実、安藤は「日本最高の権威(天皇)が国会の下に置かれている」現状を批判し、皇室典範は「国会ではなく皇室の方々でお決めいただき、国民はそれに従うという風に決めたほうがいい」と言い放った。日本国憲法の「国民主権」原理を否定する大問題発言というほかない。

 こんな人物を憲法調査会の委員に選んだことをみてもわかるように、自民党内には安藤と同じ考えの持ち主が大勢いる。安倍晋三首相自身、かつて同趣旨のことを述べていた。いわく「二千年以上の歴史を持つ皇室と、たかだか六十年あまりの歴史しかもたない憲法や、移ろいやすい世論を、同断に論じることはナンセンスでしかない」(文藝春秋2012年12月号)。

 トップがこうなのだから、自民党の改憲草案が「国民主権」を実質的に否定した内容になるのは当たり前の話だ。草案前文の「日本国は…天皇を戴(いただ)く国家」(戴くとは崇(あが)め敬う、敬い仕えるの意)という表現からして、「国民主権」原理とは相容れない。

明治憲法より後退

 18世紀後半の市民革命を経て制定された近代憲法には、国家の基本法という本来の要素に加え、「個人の権利・自由を確保するために国家権力を制限する」という目的がある。米国の憲法も、フランスの憲法も、そして私たちの日本国憲法も「主権者である国民が憲法を制定して国家権力に縛りをかける」という立憲主義の考えにもとづく。

 だが、安倍自民党が目指す憲法は、そうした今日的な意味での憲法ではない。たとえば、安倍首相が自ら立候補を要請したとされる青山繁晴参院議員(元共同通信社政治部記者)はこんなことを言っている。「西洋の憲法と、日本語の憲法は全く別物だ。私たちの憲法は古代の十七条の憲法に始まり、それが近代化されたのは明治憲法ではなく、本来は五箇条の御誓文。御誓文こそ、私たちの本来の憲法だ」(11/2朝日)

 これは青山個人の妄言ではない。自民党の改憲草案Q&Aは、「西欧の天賦人権説」にもとづく現行憲法の条項を全面的に見直すと述べている。“日本の伝統のなかには、誰もが生まれながらにして個人として尊重される権利を有するなどという考え方はない”というわけだ。

 実際、草案は「公益及び公の秩序に反してはならない」の文言を多用し、市民的自由や人権の保障に様々な制約を加えている(第21条2項、言論の自由の制限など)。これは「法律による留保」で人権を制限した明治憲法よりも、ある意味後退している。憲法それ自体で人権を制限しているからだ。

国民を縛る道具に

 青山が言うように、自民党は「十七条憲法」がお気に入りのようで、改憲草案前文の「和を尊び」という文言は「和の精神は、聖徳太子以来の我が国の徳性である」という党内意見を踏まえて挿入したのだという(草案Q&A)。

 寝言を言うのもたいがいにしてほしい。「十七条憲法」なるものは時の政治権力である朝廷の権威を正当化するための道徳的訓令集にすぎない。立憲主義にもとづく近代憲法のなかに書き込みうるような内容ではないのである。

 大体、「和を以て貴しとなし」で始まる第1条の趣旨は“仲良くしよう”ではなく、“君主や目上の者に逆らってはいけない”ということだ。つまり、安倍自民党は「権力者には黙って従え」という価値観に貫かれた憲法こそが日本の伝統にふさわしいとみなしているのである。

 五箇条の御誓文にしても、明治政府の基本方針を天皇が神々に誓うという形式で世に示したもので、これを「私たちの本来の憲法」というのだから、安倍自民党にとっては「国家政策を上から押し付けるための憲法」が理想なのであろう。いや、間違いなくそうなのだ。

 11月24日に行われた衆院憲法審査会。自民党の中谷元(げん)議員は党改憲草案の撤回を拒否、「立憲主義を何ら否定するものではない」と開き直った。黒を白、戦争を平和、クソを味噌と言い張る類の詭弁と指摘しておく。    (M)



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