2016年12月30日発行 1459号

【米軍オスプレイ墜落/機体バラバラを「不時着」というまやかし/「大本営発表」に従う大手メディア】

 米軍普天間飛行場所属の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイが12月13日夜、名護市沿岸部の浅瀬に墜落し、大破した。この重大事故を米軍や日本政府は「陸地を避け自発的に着水したもの」と説明。大手メディアも「不時着」と報道した。軍や政府の発表を無批判にたれ流す−。まさに、「大本営発表」をそのまま報じた戦争中と同じである。

米主要紙は「墜落」

 「沖縄オスプレイ不時着/東方沖/米軍機/乗員2人負傷か」(朝日)、「オスプレイ海に不時着/沖縄沖、米軍乗員5人救助」(読売)、「オスプレイ名護沖不時着/配備後初/米乗員2人負傷」(毎日)。いずれも12月14日付朝刊の第一報だが、見事なまでの横並びである。

 これらの報道は米軍や日本政府の発表を鵜呑みにしたものだ。米海兵隊は報道発表文で「キャンプシュワブの浅瀬に着水した」と発表。稲田朋美防衛相も「コントロールを失った状況ではなく自発的に着水したと聞いている。墜落ではない」と説明した。日米地位協定により、日本の捜査当局が現場検証できない状況下で、「墜落ではない」と言い切ったのだ。

 事故を小さく見せるために「柔らかい表現」を使うのは米軍の常とう手段である。2004年8月、海兵隊の大型ヘリコプターが沖縄国際大学の校舎に激突したときがそうだった。墜落機が爆発炎上したにもかかわらず、米軍は「救急着陸」と発表した。

 今回のオスプレイ事故も同じことが言える。プロペラがちぎれ、尾翼が折れ、胴体部分はバラバラに大破…。波間に漂う機体の惨状を目の当たりにすれば、「着水」や「不時着」という表現のおかしさは明らかだ。米大手のAP通信、英ロイター通信、保守系FOXニュース、さらには米軍準機関紙「星条旗」までもが事故を墜落(Crush)と伝えている。

 それなのに、日本の大手メディアは「大本営発表」のタレ流しに終始した。「浅瀬着水」との見出しを打った読売新聞は事故現場の写真をほとんど載せていない。朝日新聞はアリバイ的に「米軍や政府は『不時着』だというが、翁長知事が示した『墜落』との認識こそふさわしい」(12/15社説)と指摘したものの、見出しでは「墜落」と書かない。

 テレビもNHKや在京の民放各局はこぞって「不時着」と報道した。テレビ朝日に至っては系列局の琉球朝日放送に圧力をかけ、「墜落」を「不時着」と言い換えさせたという(ニュースサイト・リテラ12/15配信記事)。

危険な訓練伝えず

 そもそも、今回のオスプレイ墜落は沖縄の人びとにとって「起こるべくして起きた事故」であった。米軍キャンプ・ハンセンに隣接する宜野座村の城原地区上空では、12月に入ってオスプレイによる物資つり下げ訓練が続いている。集落の位置を示す「航空標識灯」を無視し、民家の真上を水タンクなどをつり下げた状態で飛行するのだから危険極まりない。

 米軍統治下の1965年6月、パラシュート物資投下訓練中の米軍機からトレーラーが落下し、自宅の庭先で遊んでいた小学5年生(読谷村在住)が下敷きになって死亡した。この痛ましい事故を沖縄県民は忘れていない。当然、今回の吊り下げ訓練にも激しく抗議している。

 だが、米軍は住民の訴えを無視して訓練を続行、「今後も継続する」と明言した。この経緯を詳しく報じたのは、在京メディアでは東京新聞のみ。こんな報道姿勢だからオスプレイの脅威が全国的に伝わらないのである。

海兵隊撤退掲げる地元紙

 今回の事故を受け、沖縄の地元2紙は米海兵隊の撤退を求める論陣を張っている。15日付の琉球新報社説は、海兵隊トップのニコルソン四軍調整官の「操縦士は住民に被害を与えなかった。感謝されるべきだ」発言を厳しく批判。「海兵隊は沖縄社会と到底相いれない異物と化している。一刻も早く姿を消してもらいたい」と主張した。

 同じ日の沖縄タイムス社説は、22日に行われる北部訓練場の返還記念式典を「政治ショー」と指摘。日本政府は式典を中止し、オスプレイによる被害をなくすことに全力をあげるべきだと訴えた。

 取材記事では、琉球新報・伊集竜太郎記者の「オスプレイ残骸発見ルポ」(12/15)が印象に残る。14日の午前0時すぎに事故現場に到着。報道記者は自分ひとりという状況の下、機体残骸の写真データを米兵に奪われることを恐れ、岩場に身を隠して本社に送信したという。

 そんな伊集記者は前述のニコルソン発言について「県民意識とのあまりの乖離(かいり)に頭に血が上り、悔しくて涙が出た」と記している。基地被害に苦しむ沖縄県民の側に立った地元紙の記者らしい反応だ。この怒りが大手メディアには欠けている。自ら進んで国策宣伝機関と化したのだから当然と言えば当然だが。

   *  *  *

 オスプレイが飛び回っているのは沖縄だけではない。米軍横田基地(東京都)には空軍仕様のオスプレイが配備され、海兵隊のオスプレイも沖縄から頻繁に飛来している。厚木基地(神奈川県)では今年、オスプレイの離発着訓練が約60回行われた。揚力不足で墜落しやすい欠陥を持つ軍用機が日本全国をわが物顔で飛んでいるのである。

 住民の生命安全よりも軍隊の論理が優先する。言い換えれば、日本国憲法が日米安保条約によって無効化される事態が起きている。日米両政府の意向を汲み、オスプレイ事故のわい小化にいそしむマスメディアの罪は重い。(M)



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