2017年01月06日・13日発行 1460号

【憲法より安保条約が上/オスプレイ墜落にみる治外法権/「軍事優先」保障する安倍政権】

 墜落事故からわずか6日後にオスプレイの飛行訓練を再開した米軍。独自の事故調査もしないまま、それを容認した日本政府。今回のオスプレイ墜落事故は在日米軍に事実上の治外法権が与えられている事実を浮かび上がらせた。この国には憲法や法律を超越するものとして、軍事優先の「安保法体系」が存在しているということだ。

現場検証すらできず

 治外法権。ある国の領土に居ながらその国の法律・統治権の支配を受けない特権のことをいう。大抵の人は「学校で習った歴史上の用語」として認識しているはずだ。「不平等条約の改正、すなわち治外法権の撤廃と関税自主権の回復は明治政府の悲願であった」というように。

 だが、現代の日本でも治外法権は生きている。在日米軍基地および在日米軍の活動には、日本政府の権限も司法権も及ばない。米軍基地は日本の領内にあるのに、主権の及ばない治外法権の下に置かれているのである。

 別の言い方をすると、今の日本には2つの法体系が存在する。憲法・法律・命令(政令など)と続く「憲法体系」と、日米安保条約・日米地位協定・特例法と続く「安保法体系」だ。この軍事優先の「安保法体系」によって、在日米軍は「憲法体系」に制約されない軍事活動の自由を保障されている。「安保法体系」は「憲法体系」の上にある、ということだ。

 「そんなバカな」という人は今回のオスプレイ墜落事故を思い起こしてほしい。事件事故があった場合、捜査機関は発生した状況で現場を保全することで証拠を集めるのが基本である。だが、今回の事故では機体の回収やパイロットの聴取は米軍が行った。海上保安本部の捜査協力要請は米軍に黙殺された。

 2004年の沖縄国際大学米軍ヘリ墜落事故のときもそうだった。民間敷地内にもかかわらず米軍は墜落現場をただちに封鎖。日本の警察や消防は立ち入ることができなかった。沖縄県警が現場検証に着手できたのは事故機の撤去が終了した後だった。

法治国家ではない

 なぜ、こんなことになるのか。日米地位協定17条10項の合意議事録により、提供区域の内外を問わず日本側は米軍の同意がない限り、米軍財産の捜索や差し押さえなどはできないとされている。たとえ東京の都心に米軍機が墜落しても、日本の捜査機関は破片一つ触れることができないというわけだ。

 オスプレイなど米軍機が日本各地の上空で危険な低空飛行訓練を行えるのも、航空法が定める諸規定(飛行禁止区域の遵守、最低安全高度の遵守など)の適用除外が特例法で認められているからだ。しかも日本政府は地位協定の拡大解釈により、安保関連の特例法がない分野にも米軍の特権を広げている。

 外務省の極秘文書「日米地位協定の考え方」(1973年)はこう記している。「わが国に駐留する米軍(集合体としての軍隊及び公務執行中の軍隊の個々の軍人等)に対しては、施設・区域の内外を問わず、原則としてわが国の法令の適用はない」

 米軍が日本の国内法の規制を受けていたのでは「軍隊としての機能を維持できず、任務を有効に遂行しえないことになる」。だから、国内法令は原則適用されないというのである。おそるべき軍事優先の論理というほかない。

 沖縄県の翁長雄志知事がオスプレイの飛行訓練再開を容認した日本政府を「こういう政府は相手にできない。法治国家ではない」と批判したことはまったく正しかった。軍隊の都合が「憲法体系」に優先する国など法治国家の名に値しない。

安倍自身が憲法破壊者

 外国の軍隊に治外法権を与え、軍事活動の自由を保障する−−そんな行為を日本政府は自ら進んで行ってきた。安倍政権は特にそれが著しい。平和憲法に拘束されることを忌み嫌い、日本を再び軍事優先国家に改造しようとしている連中にとって、軍隊の論理による憲法の空洞化はむしろ好ましいことなのだ。

 そもそも、安倍政権自身が「憲法体系」の破壊者だ。まずは、歴代政府の憲法解釈を一方的に覆し、集団的自衛権の行使容認を柱とする戦争法(安保法制)を成立させた。そして、日本国憲法の三大原理(国民主権、平和主義、基本的人権の尊重)を否定する改憲策動を進めている。市民の自由と権利を抑圧し、戦時体制への動員をスムーズに行うためだ。

 この暴走政権に司法も追随している。先日の第4次厚木基地爆音訴訟判決で最高裁は、住民側の自衛隊機飛行差し止め請求を棄却した。自衛隊の訓練に「高度の公共性、公益性がある」というのが理由だ。戦力不保持を定めた日本国憲法の下で、軍事上の公益性など認められるはずがない。その常識を「憲法の番人」が公然と無視したのである。

   *  *  *

 米軍は沖縄以外の基地にもオスプレイを配備する計画で、自衛隊も順次導入を予定している。事故続きの欠陥機が危険な訓練をしながら日本の空を飛び回る。日本全国が「憲法番外地」状態にあるといってよい。軍事優先の戦争国家路線を突き進む安倍政権を許してはならない。  (M)



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