2017年01月06日・13日発行 1460号

【どくしょ室/国のために死ぬのはすばらしい? イスラエルからきたユダヤ人作家の平和論/ダニー・ネフセタイ著 高文研 本体1500円+税/戦争国家を支える愛国心教育】

 著者のダニー・ネフセタイは1957年イスラエル生まれのユダヤ人。1988年「木工房ナガリ家」を埼玉県秩父に開設した。彼は今、母国イスラエルの戦争政策に反対すると同時に、日本の原発、戦争政策に警鐘を鳴らし続けている。

 著者の祖父母は1920年代にヨーロッパから移住してきた。1948年に建国されたイスラエルは、パレスチナ人が暮らしていた村落を破壊し、ユダヤ人入植地を拡大し続けた。パレスチナ難民が発生し、イスラエルは周辺アラブ諸国と戦争を繰り返していく。

 著者は少年時代、イスラエルの戦争に疑問を持たなかった。その理由は、徹底した「洗脳」教育があったからと振り返る。

 建国前の1920年代、パレスチナの北部テルハイに入植したユダヤ人は、その地にいたアラブ人と激しい戦闘を繰り広げ多数の戦死者を出した。戦死者たちは「建国の獅子」とあがめられ、彼らが残した「国のために死ぬのはすばらしい」という言葉は、イスラエルの子どもたちに繰り返し語られた。ユダヤ教の祭りの日には、子どもたちがわら人形を燃やし歓声を上げる。その人形はユダヤ人を大量虐殺したヒトラーや敵国エジプトのナセル大統領に見立てたものであった。

 高校生時代には、武力侵攻したガザ地区でパレスチナ人住居を破壊してつくられた広い道路を見せられ、「この地区のパレスチナ住民にも役に立っている」と説明された。「イスラエルは平和を望んでいるが、戦争を仕掛けるのはアラブ諸国」「周りは敵だらけだから軍事力を増強することは仕方ない」と信じ込まされ、イスラエルの少年は18歳の徴兵を迎えるのだ。

 本書の後半では、著者の考え方が日本で大きく変化したことが述べられる。一方で、木工作家として生活する日本社会に対し、安全よりも効率が優先され、権威主義がはびこっていると感じるようになった。福島原発事故の3か月後に「原発止めよう秩父人」を立ち上げ、原発、平和、人権などをテーマに講演活動を続けている。

 著者は日本とイスラエルの類似性に危機感を抱く。「周りは敵だらけ」とするイスラエルの「国防意識」と「北朝鮮や中国の脅威」を信じる日本人の意識はそっくりだという。その「国防意識」をてこに戦争法が成立させられた。

 著者はアウシュヴィッツを訪問し、ユダヤ人虐殺につながる差別の流布、ユダヤ人狩りの始まりなどの節目について考えた。どこかでナチスの行為をドイツ社会が止めていれば虐殺は起きなかったはずだ。その節目を「帰還不能点」と呼ぶ。

 イスラエルにも日本にも戦争、虐殺につながる「帰還不能点」が日常生活にたくさん潜んでいる。目の前に「帰還不能点」があれば勇気を出して声を上げよう、と著者は訴える。(N)
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