2017年01月20日 1461号

【南スーダン 武器禁輸決議をつぶした安倍政権 武力で権益狙う「戦争国家」を宣言】

 安倍政権は戦争国家に向けてまた一歩踏み込んだ。米国が国連安全保障理事会に提出した南スーダンへの武器輸出禁止などの制裁決議案に賛成せず、否決に追い込んだ。米政府の非難も気にかけず現地政府擁護を選択、軍隊の駐留で権益を確保する「普通の戦争国家」をめざす日本の姿を世界に見せつけたのだ。

武器禁輸阻んだ日本

 南スーダンへの武器関連物資輸出禁止や内戦当事者に渡航禁止・資産凍結を課す制裁決議案が12月23日、国連安全保障理事会で採決された。米・英・仏など7か国の賛成にとどまり、採択に必要な9か国に達せず廃案となった。当初賛意を示していたセネガル、米国に同調してきた日本が棄権に回り、採択させなかった。

 提案国である米国のサマンサ・パワー国連大使は「過剰な武器の流入によって大勢の人びとが命を落としている。現地の残虐な状況に良心は揺り動かされないのか」と棄権した政府を厳しく批判した。

 この批判に日本政府はどう答えているのか。別所浩郎(こうろう)国連大使は「南スーダン移行政権が前向きに取り組む中で、さらなる制裁を科すのは逆効果となりかねない」と理由を述べた。南スーダンのキール大統領が12月に発表した「包括的な国民対話」の声明を評価すると言う。

 菅義偉(よしひで)官房長官も同様の発言をしている。政府は「何を言われようが立場は変わらない」と動揺も見せていない。だが、南スーダンが「国民対話」など成立する状況にないのはわかっているはずだ。なぜ日本政府は、米国政府と対立して決議案を葬ったのか。

民族浄化の危機

 背景を探る前に、南スーダンの状況を確認しておこう。

 南スーダンは、スーダンから独立2年後の2013年、石油利権をめぐりキール大統領とマシャール副大統領の間で内戦状態となった。15年8月にいったん和平協定が成立するも、16年7月に再び大規模な戦闘がおこり、「和平」は崩れた。以来、国連現地調査団や人権理事会、国際人権団体などが危険な状況に警告を発している。

 11月に現地視察した国連のディエン事務総長特別顧問は「民族間の暴力が激化しジェノサイド(大量虐殺)に発展する強い危険性がある」と指摘している。キール(ディンカ人)とマシャール(ヌエル人)の利権争いが民族対立にすり替えられていった。首都ジュバがある中央エクアトリア州のイエイでは、ディンカ人への襲撃事件が起き、犯人掃討作戦の指揮を大統領自らが行うと宣言。報復としてエクアトリア人が殺されているという(11/16毎日)。

 国連人権理事会は12月1日「民族浄化のおそれ」と警告し、潘基文(パンギムン)事務総長は19日「行動を起こさなければ大量虐殺に向かう」と切迫した状況を訴えている。

 いかに大量虐殺を防ぐか。これが現在の国連機関・人権団体共通の認識だ。

自衛隊駐留のため

 この状況で、あえて安倍政権は大量虐殺を引き起こすおそれのある大統領擁護に回った。「普通の戦争国家」であれば当然のことだからだ。

 「戦争国家」とは、軍隊を駐留させ利権争いを優位に進める国家だ。安倍政権は、湾岸戦争、イラク戦争でおくれを取った「教訓」から、自衛隊恒久派兵の道を戦争法でこじ開けてきた。南スーダンの石油だけでなく、アフリカに眠る資源の獲得を狙い、中国などと激しい利権争いの真っただ中にある。南スーダンに派兵していない米国にイニシアチブは渡せない。そのためにも自衛隊駐留を死守する。これが安倍政権の判断だ。

 13年の内戦勃発時から、武器移転停止が必要と人権団体は訴えていた。今回の武器禁輸提案自体、遅きに失している。それは米国が大統領を取り込むために静観してきたことによる。軍産複合体が巨大な影響力を持つ米政府。今回も人道的立場から提案したわけではない。ロシア、中国などと対抗して主導権を握ろうとするものだ。腐敗政権であろうと、独裁政権であろうと、権益により近づける方策を選ぶのがグローバル資本家たちだ。安倍もそう考えている。

 安保理採決の前に、稲田防衛大臣は「自衛隊が安全を確保して有意義な活動ができるにはどうすれば最も適当かという観点から、現実的に検討する」と発言した。制裁を行えば、大統領が硬化し自衛隊の危険が増すのだという。しかし、稲田は自衛隊員の命を考えているわけではない。

 南スーダン政府軍と国連部隊の交戦の事実(16年7月)が明るみに出た。政府軍と自衛隊が交戦することになれば、国家間の戦闘であり、明らかな憲法違反。撤退は避けられない。これが、安倍の考える「自衛隊(撤退)の危険」だ。だからこそ、腐敗・暴力の大統領派と一体になって居座る覚悟を示す必要があったのだ。

 安倍の野望のために南スーダン市民、そして自衛隊員の血を流させてはならない。



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