2017年01月27日 1462号

【放射能汚染土再利用 「一億総被曝」政策を許すな 原子力ムラの秘密決定策動】

 福島第一原発事故で発生した8000ベクレル以上(放射性セシウム1`グラム当たり。以下同じ)の「指定廃棄物」。環境省がそのコンクリート資材などへの「再利用」に踏み出そうとしている。放射能汚染土を建設資材に混ぜ込み、全国に流通させるものだ。

基準投げ捨て再利用へ

 この環境省の「新方針」が明るみに出たのは昨年6月。指定廃棄物に含まれる放射性セシウムの量が低下し8000ベクレル以下となった場合、建設資材として道路整備などに活用できるようにする。

 もともと原子炉等規制法では、廃炉などで出た金属くずなどの放射性廃棄物を「安全に再利用」できる基準(クリアランスレベル)を1`当たり100ベクレル以下に限っており、これを超える場合は低レベル放射性廃棄物処分場に封じ込める義務があった。

 ところが、福島第一原発事故後に制定された放射性物質汚染対処特別措置法(いわゆる除染特措法)は、8000ベクレルまでは一般廃棄物同様の処分が可能とした。これだけでも市民の健康を危険にさらす重大な改悪だ。

 今回、環境省が持ちだしてきた新方針はこれをさらに進め、8000ベクレル以下の放射能汚染土を公共事業に使えるようにする。主な使い道としては道路の盛り土などが想定されている。実施されれば、全国各地で市民が日常的に利用する道路などが混ぜ込まれた汚染土により放射線発生源となりかねない。

命よりカネの二重基準

 除染特措法でも、8000ベクレルは放射性廃棄物の処分のための基準であり再利用のための基準ではない。現に、環境省ホームページでも「100ベクレルは廃棄物を安全に再利用できる基準であり、8000ベクレルは廃棄物を安全に処理するための基準」だと説明している。今回の新方針は、国が自ら定めた基準さえ投げ捨てるもので、当然、除染特措法にも違反する。

 違法な基準がなぜ堂々と出てきたのか。環境省が開催した「放射線影響安全性評価検討ワーキンググループ」の会合からその理由が見えてくる。

 この会合では、放射能汚染土を100ベクレルまで浄化した場合の再生処理コストを2兆9127億円と見込む一方、8000ベクレルの場合は1兆3450円で済むと試算した。「減容率」(注)は100ベクレルの場合が40%で、汚染土の4割が再利用できない。8000ベクレルの場合は0・2%。99・8%が再利用できるという試算だ。

 要するに、基準を8000ベクレルに引き上げれば、再生処理コストは半分以下になり、ほとんどの汚染土が再利用可能になる―。原子力ムラだけが大笑いする命よりカネ≠フ日本全国総被曝政策だ。

 「100ベクレルを汚染土再利用基準にすることは現実的に考えると難しい」。環境省担当者はこう発言している。「汚染土の置き場がないのだから仕方がない」と居直るのだ。

「身内」からも批判

 環境省は、放射性物質濃度がクリアランスレベルの100ベクレルに下がるまで170年かかるとしながら、盛り土の耐用年数を70年と説明。専門家からも「盛り土が使えなくなった後、汚染土をさらに100年も管理しろというのか」と疑問が上がっている。

 法令上義務づけられている放射線審議会への諮問も行われていなかった。環境省の外局であり「身内」であるはずの原子力規制庁ですら、環境省から「二重基準」に対する十分な説明がないとして、放射線審議会への諮問を認めなかった。新方針はあまりにでたらめすぎて、最初から破たんしている。

 環境省はこうした会合のほぼすべてを非公開の秘密会としていた。「放射線影響安全性評価検討ワーキンググループ」に至ってはその存在すら公表されていなかった。国会、メディアの追及で環境省はようやく存在を明らかにしたが、最初は議事録の公開も拒んだ。

 一部の利害関係者だけの秘密会で決めた「一億総被曝」政策を一方的に押しつける―命よりカネ、秘密主義の安倍政権を打倒し、原発政策を転換しなければならない。

(注)減容率とは、焼却、再生処理で廃棄物の容量を減らした上で最終処分が必要な率。

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