2017年01月27日 1462号

【どうみる少女像問題/「嫌韓感情」を煽る安倍政権/「日韓合意」の不当性を隠す】

 日本軍「慰安婦」問題のモニュメント(少女像)が韓国・釜山の日本総領事館前に設置されたことへの対抗措置として、安倍政権は駐韓大使の一時引き揚げなどに踏み切った。日本のメディアは韓国側の「約束違反」を非難する論調一色に染まっている。しかし、問題の根本原因は被害者の頭越しに結ばれた「日韓合意」自体にある。

「約束違反」と単純化

 「日本は誠実に義務を実行し、10億円をすでに拠出している。次は韓国がしっかりと誠意を示してもらわなければならない」。1月8日放送のNHK番組で安倍晋三首相はこう語った。韓国政府が少女像の設置を黙認していることは「慰安婦」問題に関する日韓合意に違反する行為であり、ただちに像を撤去すべきだ、ということである。

 翌9日、日本政府は対抗措置として駐韓大使らを一時帰国させた。日韓通貨スワップ協議の中断やハイレベル経済協議の延期なども発表した。こうした対応について日本のメディアはこぞって支持を表明している。「日韓合意を損なう不法行為だ」(1/6読売社説)など、「嫌韓感情」を煽る報道も目立つ。

 世論の反応はどうか。JNNの世論調査(1/14〜1/15実施)によると、日本政府の対応を「評価する」と答えた人が76%に達しており、「評価しない」14%を圧倒した。内閣支持率も前回調査から6ポイント上昇し、67%を記録した(不支持率は31・5%)。

 たしかに、“約束を守らない韓国側が悪い”といった論調は単純でわかりやすい。しかし、日韓合意は「守らねばならない正義」なのか。合意内容に問題があるからこそ、韓国の世論は納得しないのではないか。こうした基本的視点を日本のメディアは意図的にスルーしている。

解決とは程遠い内容

 日本軍による戦時性奴隷制、いわゆる「慰安婦」問題に関する日韓両国政府の合意(2015年12月)を再確認しておこう。すべての前提となる認識は「当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり、日本政府は責任を痛感している。安倍首相は、日本国の内閣総理大臣として、心からおわびと反省の気持ちを表明する」というもの。

 そのうえで、▽韓国政府が被害者支援のための財団を設立する▽日本政府が財団に10億円を拠出する▽これらの措置が履行されることを前提に、「慰安婦」問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する。両政府は国連などの場でこの問題に関する非難、批判は控える−−とした。安倍官邸や自民党は日本大使館前の少女像の撤去が10億円拠出の条件であるようなデマを流しているが、そのような合意はなされていない。

 この合意内容については、真の解決とは程遠いという批判が当初から噴出していた。戦時性奴隷制研究の第一人者である吉見義明・中央大教授は「慰安婦制度を作った責任の主体が誰なのか、依然として曖昧なうえに、1993年の河野談話とは異なり“再発防止”措置については何も約束しなかった」と指摘。「被害者の立場からはとうてい受け入れられる内容ではない」と批判する(2016年1月9日付ハンギョレ新聞)。

 国連の女性差別撤廃委員会も昨年3月、日韓合意について「被害者中心のアプローチを十分に採用していない」と述べ、金銭賠償や公式謝罪を含む「完全かつ効果的な賠償」を行うよう日本政府に求めている。この勧告をみても「合意は世界の多くの国から高い評価を受けている」(1/8岸田文雄外相)という日本政府の主張が大ウソであることがわかる。

 被害者を置き去りにした政治決着によって、重大な人権侵害問題が「最終的かつ不可逆的に解決」することなど、ありえない話なのだ。

民衆の力で正す

 「慰安婦」問題の解決を日韓両政府に促したのは米国政府である。その背景には、日韓が歴史問題で反目したままでは日米韓の軍事協力に支障をきたすという判断があった。そうした米国の強い意向を安倍政権は受け入れた。

 ただし、安倍首相は「慰安婦叩き」で売り出した男だけに、この問題で譲歩したとみられることを嫌った。被害者に「おわびと反省の気持ち」を直接語りかけることは今日までなかったし、「おわびの手紙」を出す案は「毛頭考えていない」と否定した。

 さらに、安倍の取り巻き連中から聞こえてくるのは、「カネを払ったのだから少女像を撤去しろ」といった居丈高な声ばかり。前述の国連差別撤廃委勧告にも執拗に抵抗し、対日審査の場で「慰安婦強制連行は朝日新聞の誤報だ」という反論を試みている(主導したのは、日本会議直系の衛藤晟一(えとうせいいち)首相補佐官)。

 責任を認めず、何の反省もない安倍政権の態度を目の当たりにして、韓国内では日韓合意の白紙撤回を求める世論が高まっていった。今回の少女像設置にはこのような背景があるのである。

   *  *  *

 12月31日、釜山の日本総領事館前で少女像の除幕式が行われた。少女像を設置した市民団体「未来世代が建てる平和の少女像推進員会」は、除幕式を「少女像(「慰安婦」問題の象徴)とロウソク(朴槿恵(パククネ)大統領退陣要求デモの象徴)が出会う感激の現場」と位置づけた。

 政府の間違った決定を民衆の力が正そうとしている−−私たち日本の市民が連帯すべきはこの闘いである。自らの歴史修正主義を正当化するために「嫌韓感情」を煽りたてる安倍政権。ヘイト思想をふりまく政府は私たちの手で打倒しなければならない。(M)



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