2017年02月03日 1463号

【通常国会―安倍施政方針演説 改憲へ暴走決意を示す 戦争への「新たな国づくり」】

 「新たな国づくり、この国の未来を切り開く1年」―安倍晋三首相の年頭所感だ。施政方針演説(1月20日)でも「新しい国づくり」を繰り返した。安倍の悲願である改憲への決意表明だった。それは、新自由主義政策による格差・貧困拡大の行き詰まりを強権的に突破するさらなる暴走政治の表明である。改憲・戦争国家か、憲法の原則を貫く根本的政策転換か。安倍打倒へのこの1年の闘いは重要だ。

狙いは改憲原案作り

 「次なる70年に向かって、日本をどのような国にしていくのか。その案を国民に提示するため、憲法審査会で具体的な議論を深めようではありませんか」

 施政方針演説の中で、安倍はこう改憲に触れた。つまり「国の姿を示すものが憲法」であり、「新しい国づくり」とは改憲を意味する。年頭所感も施政方針演説も改憲への決意表明である。

 改憲をめぐる攻防は今、衆参両院の各憲法審査会の場にある。改憲プロセスを進めるには、憲法審査会で改憲項目を絞り原案をまとめる必要があるが、改憲反対政党は項目絞り込みには応じない構えだ。安倍は演説で、「ただ批判に明け暮れたり、国会でプラカードを掲げても、何もうまれません」と改憲反対政党を挑発し、「真摯かつ建設的な議論をたたかわせ、結論を出していこうではありませんか」と改憲の土俵に引き込む狙いをあけすけにした。

 安倍は昨年、北方領土交渉、真珠湾訪問で「成果」をあげ年明け解散―総選挙圧勝の勢いで一気に改憲の加速を、ともくろんでいた。だが、領土交渉は思惑通り進まず、「戦後の清算」にも批判が上がった。安倍は改めて改憲スケジュールを定めようとしている。安倍の自民党総裁任期は17年3月の党大会で3期目9年も可能となる。次のハードルは18年12月の衆議院議員任期切れ。それまでの2年弱の間に改憲発議するには、一刻も早く憲法審査会の原案がほしい。これが今年の目標なのだ。

安保強化で戦争国家へ

 安倍は施政方針を「日米同盟」から始めた。初めて内政より外交を先に述べた。異例のことだ。「日米同盟こそが我が国外交・安全保障政策の基軸である」と宣言し「不変の原則」とまで言った。

 安倍はトランプが大統領選に勝利するや、急きょ面談を求め訪米した。トランプが選挙中、「米国は日本を守る必要があるのか」と何度も発言していたからだ。「在日米軍の引き揚げ」すら想定される物言いだった。安倍があわてたのは、沖縄新基地建設の根拠が失われかねないことだ。かつて民主党鳩山政権の「最低でも県外」案を潰したのは外務・防衛官僚たちであり、沖縄の出撃基地化をめざしているのは安倍政権自身だ。新基地建設を続行するために、トランプとの間で既定路線の確認が必要だった。

 大軍拡予算が示すように自衛隊の装備増強は著しい。根拠とされるのが「日米共同運用=作戦」。日米軍事同盟強化で自衛隊を侵略軍へと脱皮させる安倍の実質的な改憲政策だ。そして「沖縄の基地負担軽減に結果を出していく」=基地建設強行。これが施政方針の最初の決意とされた。

 安倍の言う「改憲による新しい国づくり」「世界の真ん中で輝く日本」とは、侵略軍を備えた戦争国家なのである。

矛盾の乗り切り策

 改憲の国民投票は政権に対する信任投票と言われる。昨年12月イタリアで改憲案が国民投票で否決され、首相以下閣僚は総辞職した。改憲には政権への高い支持が必要と安倍は再確認したことだろう。

 改憲には現在も根強い反対世論がある。安倍政権の重要政策―戦争法、カジノ法、TPP、年金削減。どれも反対意見が賛成を上回る。ところが、内閣支持率はなお高い数字を保っている。産経・FNNの12月調査では、北方領土交渉に進展のなかった日ロ首脳会談直後でも、内閣支持率は55・6%だった。中でも20代(18、19歳含む)に限れば、63・6%。20代の支持率は全体を上回る傾向が現れている。

 親安倍マスコミの調査であることを差し引いても、この結果は、安倍政権のうそとごまかしがかなりの程度功を奏していることを物語る。

 安倍は施政方針演説で「壁」という言葉を多用した。「デフレマインド、諦めという名の『壁』」。過疎化、高齢化、画一的労働法制、配偶者特別控除の103万円―。すべて「壁」と表現した。閉塞感を感じている市民に寄り添うふりをし、「あらゆる『壁』を打ち破る」とあたかも力強い味方であるかのように装う。しかし、「壁」の大半は、間違いなく安倍政権が深刻化させた格差・貧困であり、経済・生活破壊である。

 うそとごまかしの徹底で「高支持率」を維持する以外にない安倍だが、うそがうそである以上、貧困と生活悪化の事実が一層あらわになれば、いつまでも維持はできない。

地域から憲法実現へ

 今世界各国で極右、排外主義勢力の危険な台頭がある。背景にグローバル資本主義の行き詰まりが存在する。新自由主義政策が広げた貧困、不平等に市民の怒りはかつてなく高まっている。それが真に社会変革をめざす闘いにいまだ結集しきれていない中で、米国ではトランプが現状への不満をうそと排外主義でかすめ取ることに成功した。だが、民衆は直ちに反撃に立ち上がっている。

 改憲による新しい国づくりを宣言した安倍施政方針演説は、好戦政治家の個人的願望ではない。グローバル資本の危機乗り切り策、さらなる市民収奪、排外主義と戦争国家への道の表明だ。

 対案は明確だ。主権者・市民が地域から声をあげ、平和主義・基本的人権を柱とする現憲法を実現すること。うそとごまかしを許さない闘いを広げること。それ以外にない。



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