2017年02月03日 1463号

【安倍が狙う「共謀罪」/話し合うことが罪になる/テロ対策を口実とした弾圧法】

 「共謀罪」を創設する組織犯罪処罰法改正案を今国会に提出するにあたり、政府は「テロ等準備罪」と言い換え、「一般人は対象外」と強調する。安倍首相に至っては「成立させないと東京五輪を開催できない」と断言した。ウソ八百もいいところ。共謀罪創設の目的は政権に批判的な運動の封じ込めにある。すべては戦争国家づくりのためなのだ。

「心の中」まで処罰

 日本の刑法は、結果が発生した「既遂の処罰」を原則としている。具体的な被害が生じたり、実行され危険が生じたりしなければ罪に問わないというものだ。「未遂」での処罰は例外で、犯行準備段階の「予備」での処罰は例外の例外にすぎない。

 ところが、共謀罪は未遂や予備より前の「計画」を犯罪にする。2人以上の人が犯罪にかかわる話し合い(共謀)をしたとみなされたら、実際に行動を起こさなくても処罰の対象になってしまう。かつて法務省は「会話による相談がなくても目くばせするだけで共謀は成立しうる」と国会で答弁した。「心の中」を捜査機関が推し量り処罰するということだ。近代刑法の原則を完全に逸脱している。

 また、共謀罪は「○○罪の共謀罪」などのかたちをとるのだが、政府が過去に提出した共謀罪法案では700近くの犯罪が対象となっていた。警察の側からすると、目をつけた対象を摘発するための材料(こじつけの罪状)が豊富にあるということだ。

 たとえば、威力業務妨害罪も対象なので、市民運動団体が企業や官庁に対する抗議行動を計画しただけで「威力業務妨害を共謀した」として逮捕されかねない。デモで「安倍政権を倒せ」と叫ぶ行為を「騒乱罪」とみなし、企画に携わった者を一網打尽的に検挙することも考えられる。

 たとえ立件できなくても運動側のダメージは大きい。足立昌勝・関東学院大名誉教授は「計画だけで起訴はできなくとも、逮捕や家宅捜索といった強制捜査は可能になる。対象範囲も広範で、市民を委縮させるには十分でしょう」(1/18東京)と指摘する。

 ジャーナリストの斎藤貴男は、共謀罪の本質を「権力に隷従したがらない者を徹底して排除する」、あるいは「排除される危険を見せつけて萎縮させる」仕組みと規定する。まさに、戦争国家づくりのための弾圧法を安倍政権はつくろうとしているのだ。

普通の市民が標的に

 共謀罪法案は過去3回国会に提出されたが、すべて廃案となった。人権侵害や市民運動の抑圧につながるという世論の反発が強かったからだ。そこで安倍政権は負の印象を拭い去ろうと、「テロ等組織犯罪準備罪」と言い換えることにした。菅義偉(すがよしひで)官房長官は「テロ対策」が主眼であることを強調し、「一般の方々が対象になることはありえない」と説明する。

 政府のこのような意向に応え、NHKのニュース番組は「共謀罪の構成要件を厳しくした『テロ等準備罪』を新設する法案」と呼び始めた。

 たしかに、提出予定の法案は適用対象を「組織的犯罪集団」に限定することになっている。対象犯罪を原案の半数以下の300程度に絞り込むとも言われている。だが、条文に「一般市民は対象外」と明記することが検討されているわけではない。「組織的犯罪集団」の定義もあいまいで、警察の恣意的な判断により、普通の市民がそのように扱われるおそれがある。

 沖縄平和運動センターの岸本喬(たかし)事務局次長は「私たちの日々の抗議行動が対象になりうると怖さを感じる」と語る(8/16東京)。「今でも道路交通法違反だからと強制排除される。(組織的)威力業務妨害罪の恐れがあると警察から言われたこともある。計画しただけで、すぐに適用されかねない」

 実際、現在の沖縄の状況を考えると、路上に座り込んで基地建設工事に抵抗する人びとを排除するために、彼らを「組織的威力業務妨害」を目的とする組織的犯罪集団とみなして弾圧することは十分想定しうる話である。

監視社会の到来招く

 共謀罪が創設されれば、合意の証拠を押さえるために必要だとして、室内盗聴や潜入捜査といった捜査手法の導入論が必ず出てくるだろう。昨年夏の参院選では、野党支援団体などが入る建物の敷地に警察が隠しカメラを設置する事件があった。こうした行為が合法化され、日常的な監視に使われる可能性が高い。

 このように、共謀罪がある社会では常に誰かに見張られていることを意識せざるを得ず、自由にものも言えなくなる。憲法が保障した「言論の自由」が死滅すると言っても過言ではないのである。

   *  *  *

 安倍晋三首相は「共謀罪を成立させなければ東京オリンピックが開催できない」と、無茶苦茶なことを言い出した(1/10共同通信との単独インタビュー)。オリンピックやテロ対策を口実にすれば、世論は納得すると思っているらしい。共謀罪を東京五輪のレガシー(遺産)に、ということか。市民をなめきった暴走政権の悪行三昧(あくぎょうざんまい)をこれ以上許してはならない。  (M)



ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS