2017年02月03日 1463号

【どくしょ室/「共謀罪」なんていらない?! これってホントに「テロ対策」?/山下幸夫編著 合同出版 本体1400円+税/政府のウソを徹底批判】

 安倍政権が「テロ対策」と称して今国会での成立を狙う共謀罪法案。本書は、共謀罪創設の危険性に警鐘を鳴らし続けてきた5人の論者たちによる徹底批判の書である。

 共謀罪とは「犯罪にかかわる相談や話し合いをしたと見なされたら、それだけで犯罪になる罪状」(斎藤貴男)のこと。安倍政権が狙う創設法案が成立すれば、「体制や枠組みに抵抗するような動きをする人間には、いつでも共謀罪が適用されて逮捕されるおそれが高まる」。まさに、戦争国家づくりのための治安立法だ。

 詳しくは今号の別記事で論じているので参照してほしい。ここでは記事で触れなかった論点を紹介しよう。海渡雄一弁護士が執筆した本書第4章、「国連組織犯罪防止条約」批准には共謀罪法制は必要不可欠なのか、という点である。

 国連が2000年に採択した「組織犯罪防止条約」は、各国が共謀罪を設けることを批准の条件としているとされる。共謀罪を早急に創設しなければ、日本は国際的なテロ対策に乗り遅れる−−これが日本政府の言い分である。

 だが、正確には「越境組織犯罪防止条約」と訳すべきこの条約の主要な目的は「マネーロンダリング」(資金洗浄)対策であり、政治や宗教絡みのテロ対策ではない。事実、条約の適用対象となる「組織的な犯罪集団」には、「金銭的、物質的な利益を得る目的」という条件がついている。

 しかも条約では、各国の刑法の原則の範囲内で国内法を整備することを認めている。日本政府自身、条約制定過程で「すべての重大犯罪を共謀段階から犯罪化することは我々の法原則と両立しない」という見解を表明していた。

 にもかかわらず、政府は国際犯罪以外の一般犯罪にまで対象を広げ、「組織犯罪集団」の規定さえも外した共謀罪を狙ってきた。明らかに「包括的な共謀罪を制定し、過去になかったような処罰範囲を拡大する好機と捉えた節がある」と海渡弁護士は言う。「条約批准のため」とは共謀罪法制定の口実に過ぎないのだ。

 山下幸夫弁護士は「共謀罪が要請する捜査手法が監視社会を招く」(第5章)と指摘する。昨年5月、通信傍受法(盗聴法)が「改正」された。犯罪対象が拡大し(昨年12月施行)、傍受方法の効率化・合理化が2019年をめどに狙われている。実現すれば、警察施設内で立会人なしの傍受が可能となる。

 このように、共謀罪創設を見込んだ監視体制づくりがすでに行われている。「政府批判をする市民運動や労働組合などの活動を警察が日常的に監視し」、共謀罪を使って「運動を弾圧することも予想され」ると山下弁護士は言う。

 暗黒社会を招く悪法を許してはならない。本書を活用し、共謀罪反対の世論を盛り上げたい。  (N)
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