2017年02月10日 1464号

【「ポスト真実」とは何か/似た者どうし 安倍とトランプ/「ウソと暴言の政治」がはびこる理由】

 「ウソと暴言の政治」が世界を席巻している。米国のトランプ新政権がそうだし、日本の安倍政権も該当する。連中のつくウソは見え透いたウソだ。普通に考えれば、すぐにばれて信用失墜→人気急落となりそうなのに、そうなっていない。この現象をどうみるべきなのか。流行語の「ポスト真実」をキーワードに読み解いてみたい。

事実が通じない?

 世界最大の英語辞典を発行している英オックスフォード大学出版局は昨年11月、毎年選考している「今年の言葉」に「ポスト・トゥルース(真実)」を選んだ。ポストは「後の、次の」という意味なので「脱真実」というニュアンスだろうか。その定義は「世論を形成する際に、客観的な事実よりも、感情や個人的心情へのアピールの方がより影響力があるような状況」というもの。最近の政治状況を言い表す言葉として、英語圏で使用頻度が飛躍的に増しているという。

 すなわち、英国のEU(欧州連合)離脱決定や欧州各国における極右勢力の台頭、そして暴言王トランプの米大統領就任である。なかでもトランプ現象は「ポスト真実」の典型例と言われる。政治家の発言の真偽を検証する「ポリティファクト」という米国のサイトによると、大統領選挙におけるトランプの発言の実に7割近くが「ウソか間違い」だったという。

 問題は、メディア等が虚偽を指摘しても、トランプ支持層の態度にほとんど変化がなかったことにある。CNNの政治コメンテーターは「トランプ氏や彼の支持者には、もはやファクト(事実)そのものが通じない。気に入らないファクトはオピニオンとして認めないからです」(1/25毎日)となげく。

 日本の安倍政権にも同じことがあてはまる。福島原発事故では汚染水対策の見通しすらないのに「状況は完全にコントロールされている」と言い放つ。アベノミクスの失敗を追及されても「道半ば」と開き直る。「不戦の誓い」を堅持すると言いながら、戦争法の強行制定など平和憲法の破壊を進める。

 国会答弁をみても、はぐらかしと自画自賛、野党攻撃のオンパレード。これで高水準の内閣支持率を維持できるなんて従来の常識では考えられない。そこで、事実よりも感情が優先する「ポスト真実」の時代だという分析がでてくるというわけだ。

憎悪が真実を拒絶

 もちろん、真実の暴露が威力を失ったわけではない。舛添都知事の失脚にみられるように、「不都合な事実」が暴かれることは政治家にとって今でも命取りになりうる。そういう意味では政府広報機関と化したメディアの罪は重い。訳知り顔で「ポスト真実の時代だ」と論じる前に、「安倍が嫌がる事実をきちんと報道しろ」と言いたくなる。

 だが、ここではあえて労働者・市民の側の問題を考えてみたい。昨年7月、高知新聞が参院選の争点と憲法問題についての街頭インタビューを行った際、こんな反応が返ってきた。「興味ない。もう毎日のことでいっぱいいっぱい。憲法っていっても生活から遠い存在。それどころじゃないです」(37歳女性)

 正直な反応だと思う。精神的にも肉体的にもきつい労働、家計は苦しくなるばかり。そんな毎日では、政治や経済のニュースを能動的にチェックし、情勢認識を深める余裕などない。先行きの見えない不安の中で、多くの人びとは複雑な現実を単純化してなんらかの見通しを与えてくれそうな言葉を欲している。

 だから、トランプの「米国を再び偉大な国にする」や、安倍の「日本を取り戻す」といった威勢のいいスローガンが、疲れた心に心地よく響くのだろう。自信を持ちにくい国になっている裏返しとして、「日本スゴイ」式のテレビ番組や書籍が人気を博しているのと同じ現象だ。

 注意しなければならないのは、この「愛国心」が排外主義とセットになっていることである。人びとの不満のはけ口となる「敵」を設定し、それを攻撃する自分への支持につなげていく。「不法移民が悪い」「中国や韓国が悪い」というように。

 排外主義の熱狂に踊らされた者は冷静な判断力を失ってしまう。為政者のウソを暴く客観的事実を示されても、憎悪の感情が受け入れを拒否してしまうのだ。

心に響く言葉を

 「正しいこと」を伝えても、「自分の感覚に合わない」と退けられる−−こうした風潮の広がりはかなり厄介だ。とはいえ「大衆の知的劣化」を嘆いたり、上から目線で「理性的になりましょう」と説いたところで状況は何も変わらない。むしろ人びとの感情に訴えかける政治的暴露の方法を工夫すべきではないか。

 「感情」というと「理性」の反対でマイナスのイメージがあるが、人間は人間らしく生きるための感情を持っている。尊厳を踏みにじる不当な仕打ちへの怒り。「不正を黙ってみていられない」という義憤。抑圧の強い社会の中で、こうした感情は眠らされているかもしれないが、これを揺り起こし束ねることができれば、数々の実例が示すように世論は劇的に変わるはずだ。

 政府や御用メディアがふりまくウソを暴き、真実を伝え続ける。人びとの心に響くように表現や伝達方法を練り上げ、わかりやすくタイムリーに。この役割を『週刊MDS』は全力で果たしたいと決意している。      (M)

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